開腹手術と腹腔鏡手術の違いとは? -腹腔鏡手術編-

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前回の記事では、現在お腹(腹部)の手術で行われている開腹手術と腹腔鏡手術という2種類の手術方法のうち、開腹手術にスポットを当ててお話しいたしました。

前回、全身麻酔で行う手術の流れについてお話しいたしました。記事を通じて、手術室内でどのように手術が進行していくかある程度おわかりいただけ...

今回は腹腔鏡手術について、そのメリットとデメリットも含めてお話ししていきたいと思います。

腹腔鏡手術とは

腹腔鏡手術とは、お腹の壁(腹壁)に小さな孔を開け、内視鏡と呼ばれるカメラをお腹の中(腹腔内)に挿入し、内視鏡と接続されたモニターに映った腹腔内の映像を見ながら行う手術室のことを指します。

現在用いられている内視鏡は直径10mm程度もしくは5mm程度の物が一般的ですので、ある程度は腹壁を切らなければ腹腔内が覗けない開腹手術と違い非常に小さな傷でお腹の中を映し出せることがわかります。

腹腔鏡手術の歴史

腹腔鏡手術は比較的新しい手術方法と思われていますが、腹腔内を内視鏡(当時はもちろん電子式のカメラはないため鏡の反射を利用して覗き込むタイプのもの)で覗くというコンセプト自体は1800年代初頭から考案されていました。

そして1901年、ドイツの医師ゲオルク・ケリングが、犬の実験に基づき、腹腔内を空気で膨らまして内視鏡で覗き込むアイディアをドイツの学会で発表したものが、今日まで行われている腹腔鏡手術の原点とされております。

日本初の腹腔鏡手術は、1990年に山川達郎医師によって行われた腹腔鏡下胆嚢摘出術で、この成功により本邦で腹腔鏡手術が普及していくこととなりました。

今日では、虫垂や胆嚢といった小さな臓器のみならず、大腸や胃、膵臓や肝臓など腹腔内の臓器全般に腹腔鏡手術は用いられております。

腹腔鏡手術で使用する道具

腹腔鏡手術では特有の道具が必要になります。全て挙げると膨大な量になりますので、代表的な下記のものを説明致します。

  • 内視鏡
  • ポート
  • 鉗子
  • 電気メス
  • 超音波凝固切開装置など

先ず、なにを差し置いても腹腔鏡手術には内視鏡が必要です。

腹腔鏡手術黎明期は、直接目で内視鏡を覗き込むタイプのものが用いられていましたが、CCDカメラの発達により現在は内視鏡の画像がかなり拡大された状態でモニターに映し出されます。

続いて、腹壁の小さな孔からカメラや手術で用いる道具を出し入れするために、プラスチックないしは金属でできた筒状のポート(トロッカー)というものを腹壁に挿入する必要があります。

ポートには活栓が付いており、手術のためのスペースを確保するために腹腔内に炭酸ガスを送り込むことが出来ます。

また、筒の中は滑らかなバルブがついており、腹腔鏡手術はで用いるカメラや鉗子がスムーズに出し入れしやすいようになっているうえに、隙間からガスが抜けていくこともありません。

このポートから挿入し、外科医の指の代わりをする道具を鉗子といいます。マジックハンドのようなものを想像して頂いたら良いですが、手元の操作で閉じたり開いたりすることで、組織を摘むことが出来ます。

電気メスおよび超音波凝固切開装置は、主に組織を切ったり血を止める(止血)の操作で用いられます。これらは開腹手術でも使用されますが、腹腔鏡手術専用のものはポートを通るような構造になっています。

腹腔鏡手術の手順

それでは具体的に、全身麻酔がかかり、腹腔鏡手術を行う際の手順を簡潔に説明いたします。

  • 腹壁に小さな孔(小孔)を作成する
  • ポートを小孔に挿入し炭酸ガスを注入する(気腹)
  • ポートからカメラを挿入し腹腔内を観察する
  • 操作用の器械を抜き差しするポートを追加で挿入する
  • モニターで映し出された画像を見ながら手術を進める
  • ポートを抜去し傷を縫い閉じる(閉創)

先述の通り内視鏡で腹腔内を見るためには、まず内視鏡を挿入するための孔をお腹の壁(腹壁)に開けないといけません。

さらに、腹腔内は真空状態で腹壁の内側と臓器は密着していますので、炭酸ガスを使ってお腹を膨らまし、内視鏡で腹腔内を見渡すためのスペースを作らなければなりません。

そのために、小孔からポートを挿入した後、ポートの活栓に炭酸ガスを送り込むチューブを接続し、気腹という操作を行います。

なぜお腹にスペースを作るために用いられる気体は炭酸ガスなのかといいますと、炭酸ガスは体の組織に速やかに吸収される効果があり、血管の中にガスが入り込んでも比較的安全だからです。

ちなみに炭酸ガスでなしに空気が多量に血管の中に入り込むと、空気塞栓という重篤な障害を起こし、生命に関わる状況になってしまいます。

助手が操作するカメラで映し出された腹腔内の映像をモニターで見ながら執刀医は手術を進め、目的の手術が完了したら、ポートを腹壁の小孔から抜去します。

ポートを抜去した小孔は、小さいとはいえ傷ですので、糸で縫い閉じて手術は終了となります。

腹腔鏡手術でポートを挿入する部位は?

前回の開腹手術編では様々なお腹の切開部位を説明致しましたが、腹腔鏡手術も手術によって切開しポートを挿入する部位は様々です。

まずは手術が始まって一番最初に挿入するポートをファーストポートと言い、以下の部位にに挿入します。

  • 体表面から最も腹腔内に近い臍を小さく切開しファーストポートを挿入する
  • 臍以外の部位を小さく切開し腹腔内に到達したことを確認したのちファーストポートを挿入する

以前は臍は老廃物が溜まって不潔だ、とういう観点から、臍を避けてファーストポートを挿入することが多かったようです。

しかし現在では、最も体表面から腹腔内に近く、もともと臍の緒を切った傷である臍からアプローチする方法が主流です。臍の傷は術後も傷として目立ちにくくなるわけです。

以下に代表的な腹腔鏡手術のポート挿入部位(ポート配置)を示します。

          

基本的にお腹の上の方(上腹部)にある臓器の手術は上腹部中心にポートを挿入し、お腹の下の方(下腹部)にある臓器は下腹部中心にポートを挿入します。

例えば胃の手術は上腹部に、直腸の手術は下腹部にポートを挿入する、といった具合ですね。

また、手術の複雑さによって挿入するポートの数は変わり、場合によってはポートを追加することもあります。

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腹腔鏡手術のメリットとデメリット

患者さんからすると、小さな傷のため体へのダメージの少ない腹腔鏡手術は優れた手術に感じられますが、傷の小ささ以外に外科医目線から見たメリットもあります。

しかし、メリットが存在する以上、腹腔鏡手術ならではのデメリットももちろん存在します。

ここでは特に、開腹手術と対比した際のメリットとデメリットをお話ししたいと思います。

腹腔鏡手術のメリット

先ず、腹腔鏡手術の主なメリットとして下記のものが挙げられます。

  • 傷が小さいため術後の回復が早く美容面でも優れている
  • モニターに大きく拡大された組織が映るため細かい血管なども認識でき精密な手術が行える
  • 開腹手術では見えにくい腹腔内の深いところにある部位も内視鏡では容易に覗き込むことができる

腹腔鏡手術のメリットは、何と言ってもその傷の小ささだと思います。私自身が特に実感したのは、肝臓の手術です。

肝臓を大きく切除する手術では、場所にもよりますが逆L時切開と言って、腹壁をアルファベットの Lが反転するように縦横に切開する開腹法が多く用いられます。しかし腹腔鏡手術ですと、右の肋骨の下に数本のポートを立てることで手術を行うことができます。

開腹手術中心に肝臓の手術を行っていた時は、肝臓を大きく取ると体へのダメージが大きく、回復に時間がかかるのだと思っていました。しかし腹腔鏡手術で同様のことを行うと、肝臓を切除する量は同じくらいでも回復のスピードは明らかに早く感じられます。

これによって術後の回復速度は、体内でどの位大きな手術をしたかというよりも、腹壁の傷の大きさによって決まる部分が大きいのだなと実感しました(もちろん個人差があるため、開腹手術で大きな切開を行っても術後けろっとしている方もいらっしゃいます)。

また、特に女性の方にとっては、お腹の傷が目立ちにくい、というのは大きなメリットだと思います。美容面を最大限考慮した術式として、単孔式手術というお臍の傷一ヶ所から内視鏡や道具を挿入する腹腔鏡手術もあります。

続いて、外科医目線から見た腹腔鏡手術のメリットを挙げます。

先ず第一に、内視鏡が組織を拡大して映してくれるため、細かい血管などを見落とさず手術を進めることができることが挙げられます。

さらに、腹腔鏡では潜望鏡のように腹腔内の深い部位も覗きこむことが出来ますので、開腹手術だと非常に見にくい部位もまるで間近にあるかのようにモニターに映し出すことができます。

よく見える、ということはそれだけ安全性が高くなり、外科医のストレスをかなり軽減します。このメリットもより精密な手術を行う上での手助けになると言えるでしょう。

腹腔鏡手術のデメリット

続いて腹腔鏡手術の一般的なデメリットとして下記のものが挙げられます。

  • 腹壁に挿入した数本のポートから手術操作を行うので操作に制限が生じる
  • 同一内容の開腹手術に比べて手術時間がかかる 
  • 技術の指導や習得が開腹手術に比べて難しいとされている

一般的によく挙げられるデメリットが、腹腔鏡手術では限られた小孔から道具を入れて操作を行うため、どうしても操作のしにくい場所やそもそも道具が届きにくい部位が生じます。

また、組織を摘む鉗子は小さく、人間の指のように多数の関節があるわけではありませんので操作に制限が生じてしまいます。

いざとなればポートを挿入する小孔を追加で腹壁に開ければ良いのですが、いずれにせよ開腹手術より自由度が失われてしまうのは否めません。

もう一つの一般的なデメリットとしては、手術時間の長さが挙げられます。上記のような腹腔鏡手術の操作制限によって、同一内容の手術に比べて1.5~2倍ほど手術時間がかかることがあります。

ただし最近は技術の進歩によって、開腹手術との手術時間の差は埋まりつつある印象があります。

実際に私自身、鼠径ヘルニア(脱腸)の手術は開腹手術で行っても腹腔鏡手術で行ってもほぼ変わらない時間で行えます。

ただしより複雑な手術では腹腔鏡手術の方が時間がかかってしまうことが多いのも事実です。

最後に教育的な面でのデメリットとなりますが、開腹手術と比べると指導する医師が直接手を出しづらく、技術の習得が難しいとされています。

外科系の学会では毎回のように腹腔鏡手術の技術指導についてのセッションが設けられるほどです。

ただし腹腔鏡手術は内視鏡で映した映像を録画するのが一般的ですので、後から繰り返し手術動画を見て復習することが出来ますし、最近は優れたトレーニング機器が安価で発売され、手術中でなくとも練習をする機会が増えて来ており、状況は改善してきていると言えます。

 腹腔鏡手術のまとめ

以上、腹腔鏡手術の概要にメリット・デメリットも加えてお話しいたしました。腹腔鏡手術による医療事故が過去にニュースで取り上げられたこともあり、特にメリット・デメリットについては、患者さんに腹腔鏡手術の説明をする際に、開腹手術との違いも含めてしっかりとお話しするところでもあります。

それでは簡単に腹腔鏡手術についてまとめて見ましょう。

  • 同一内容の手術を開腹手術で行った時と比べて圧倒的に傷が小さく術後の回復が早い
  • 内視鏡で腹腔内の組織を大きく拡大し覗き込むような視野も得られることでより精密な手術が行える
  • 開腹手術に比べて操作の制限があり開腹手術に移行しなければならない場合もある

腹腔鏡手術についていてある程度イメージは付きましたでしょうか?

操作制限のため安全性を問われることも多い腹腔鏡手術ですが、道具や技術の進歩で安全性はかなり上がっており、私はデメリットを上回るメリットが腹腔鏡手術にあると信じて日々手術を行っております。

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