外科医は小説やドラマ、映画などの主人公にしばしば取り上げられます。
近年放映されている医療系ドラマでも、「ドクターX」、「医龍」、「ドクターズ」、「ブラックペアン」など外科医をテーマにしたものがいかに多いかわかります。
こうしたドラマなどの影響からか、世間一般からみると外科医には華やかさががあるように見えるかも知れません。
その一方で外科医の忙し過ぎる労働環境や、それによって外科医のなり手が減っていることが医療系ニュースではよく取り上げられています。
それでは外科医の仕事は一体どれくらい忙しいのでしょうか?ドラマとは違い、実際の外科医には手術以外の仕事も沢山あります。それらを順にみていきましょう。
外科医の仕事
ドラマの中の外科医は手術にスポットを当てられることが多いですが、下記のように外科医の仕事は色々とあります。
- 初診外来
- 検査
- カンファレンス
- 術前説明
- 術前管理
- 手術
- 術後管理
- 再診外来
- 化学療法(抗癌剤治療)
- 緩和治療
それでは実際に患者さんが来院し、手術を受けるまでの流れに沿うように順に外科医の仕事を説明していきましょう。
外来からカンファレンスまで
先ず外科医は外来診察室で、初診外来に紹介もしくは直接来院した患者さんの診察を行います。そこで各種検査を出し、手術が妥当かの評価を行います。
採血や心電図、レントゲンやCTと言った検査を直接外科医が行うことは少ないですが、胃カメラ、大腸カメラ、気管支鏡検査や胃透視の検査などは病院によっては外科医が直接行います。
それらの結果を持って、週に何回かあるカンファレンス(会議)で外科スタッフないしは内科や放射線科の医師達と合同で手術適応があるかどうか判断します。
ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」にも外科医がたくさん集まり、モニターに患者の検査結果を議論しているシーンが出てきますね。あれがカンファレンスと呼ばれるものです。
実際に手術が必要だという判断になった場合は、患者さんの入院日と手術日を決めます。
なお、緊急疾患(虫垂炎、消化管穿孔、腸閉塞、解放骨折、大動脈解離、大動脈瘤破裂、心筋梗塞、脳動脈瘤破裂など)が外来に飛び込んできた場合は、当日すぐに検査を完結させ即入院、そのまま手術、という流れになることもあります。
術前説明から術後管理まで
患者さんが入院してきたら、どのような手術を行うのか、そしてその手術にどのような合併症が起こり得るのかを説明します。患者さんは、説明を聞いた後に最終的に手術を受ける意志があれば、手術の同意書にサインをします。
なお、術前説明は入院前に外来で行うケースもあります。
そしていよいよ手術となります。手術が終わればその瞬間から術後管理の始まりです。
小さな手術や胃や大腸など消化管手術の術後は、比較的落ち着いていることもあり患者さんの横に張り付いて細かく点滴の量を調整したりすることとかはあまりありません。
しかし人工心肺を使った心臓の手術や生体肝移植、ショック状態の患者さんに対して行った緊急手術などの術後は、患者さんの循環動態(脈拍や血圧など)や呼吸状態が安定しないことが通常です。
そのため手術直後からこまめに点滴や昇圧剤などの調整を要し、手術が終わっても安定するまで患者さんのベッドサイドに張り付かなければなりません。
術後の経過が良好で、自宅での生活に問題ないと担当の外科医に判断された患者さんは退院していくことになります。
再診外来以降
手術を受けた患者さんの退院後の経過をみるために、入院中に担当した外科医(通常は執刀医であることが多い)は再診外来で診察を行います。
癌の摘出手術を受けた患者さんの経過を見る場合は、通常5年間は定期的に再診外来へ通院してもらいますが、心臓手術を受けた患者さんなどは、しばらく外科医が再診外来を担当したあとは内科医師に再診を引き継ぐことが多いです。
また、日本の多くの病院では化学療法(抗癌剤治療)や、術後癌が再発した患者さんの緩和治療も外科医がそのまま治療を行っているのが現状です。
その他の仕事
上記に挙げたものが外科医の日常で中心となる仕事になりますが、その他に下記のような仕事も挙げられます。
- 各種診断書作成等
- 当直
- オンコール
- 教育
- 研究
外科医だけの仕事ではなく臨床医師にある程度共通する仕事ですが、患者さんの保険の書類や診断書を作成するのも医師の仕事です。
病院によっては事務員がほとんど作成してくれる場合も多いですが、最終的なチェックは医師が行う必要があります。
また、平日の夜間や土日の救急外来も外科医が持ち回りで担当(日中なら日直、夜間なら当直、その両方を担当する場合は日当直という)する病院も多いです。当直明けに睡眠不足の状態で翌日手術をすることもまれではありません。
救急外来専門の医師が増えれば外科医が救急外来のローテーションに組み込まれなくて済むのですが、そのような病院はあまりないのが現状です。
その他、オンコールといわれる緊急を要する症例に対応するために待機しておく日もあり、その日は帰宅してもある程度緊張感を持っていなければなりません。
外科医の少ない病院では、当直やオンコールが頻繁に入り日中の仕事以外にも忙殺されてしまうことが少なくありません。
大学病院のスタッフや教育病院のスタッフであれば後輩外科医や研修医、学生の教育も仕事のうちに組み込まれます。同じく大学のスタッフの役割として、研究を行い論文を書いて行くことも大事な仕事になります。
外科医の仕事のまとめ
いかがでしょうか。外科医の仕事は手術以外にも実に沢山あります。大きくカテゴリーを分けてまとめると以下のようになります。
- 外来での仕事→初診外来、再診外来、救急外来、検査、化学療法、緩和治療
- 手術室での仕事→手術
- 病棟での仕事→術前管理、術後管理、検査、カンファレンス、化学療法、緩和治療
- デスクワーク→各種診断書作成
こうして見ると、手術の比重は低そうに見えるかもしれません。手術以外の仕事量が増えると外科医の仕事はそれだけ忙しくなります。そしてどの仕事にどれだけの比重があるかは、病院によって大きく異なります。
私の勤務する病院では化学療法、緩和治療は腫瘍内科・緩和ケア内科という独立した科が行いますし、診断書の作成もほとんど事務員が行い外科医はざっとチェックするだけで済んでいます。
また、以前勤務していた病院では救急医が日中および夜間の救急外来を全て担当していますので、外科医はオンコールで外科的な緊急疾患が来た時に対応するだけで当直を行う必要がありませんでした。
このように分業化が進めば、外科医がもっとも比重を置くべき手術にかけられる時間が多くなるため、技術をより磨くことができ、オーバーワークになり過ぎず良いことずくめだと思います。
しかし日本の多くの病院では、今回挙げた仕事を外科医が全て担っており、それが冒頭に挙げた外科医の忙し過ぎる労働環境やなり手の減少に繋がっております。
アメリカの病院に見学に行った際、外科医の仕事はさらに分業化されており手術に専念できると聞きましたし、ドイツに臨床留学していた呼吸器外科医の先生からはドイツ時代はほとんど手術しかせず、夕方には仕事が終わりすぐ帰宅していた、とよく聞かされます。
近年、学会でも外科医の忙し過ぎる労働環境についてよく議論されますが、諸外国の勤務状況からも学び仕事がより分業化されれば解決できるのではないでしょうか。労働環境が改善し、外科に興味を持つ医学生・研修医が増えてくれればと思います。