外科医は凄腕であれば性格に難があっても許容されるのだろうか?ドクターハラスメントについて考える

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皆さんは手術を受けるならどのような外科医に担当してもらいたいでしょうか?

手術の腕は超一流だが素っ気ない外科医、手術の腕は並みだが優しく接してくれる外科医など、様々な外科医が存在します。

うまく手術してくれることは最も外せない条件だと思いますが、以前の記事「ハンターハンターの念能力の種類別にみる外科医の性格や特徴の傾向とは?」で取り上げたように、手術の腕に関わらず様々な性格を持った外科医がいます。

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私は以前、手術の技術は全国トップレベルなのに、患者さんに対して暴言とも取れる発言をする外科医を目の当たりにしたことがあり、とても複雑な気分になったことがありました。

今回の記事では、凄腕の外科医であれば性格に難があっても許容されるものなのか、ドクターハラスメントという観点から考察していきます。

ドクターハラスメントとは?

世の中にはパワハラやモラハラ、セクハラなど様々なハラスメントが存在しますが、中でも医師を含む医療従事者が患者に対して行うハラスメントは「ドクターハラスメント(ドクハラ)」と言われています。

この言葉は土屋繁裕医師によって2000年代に作られた和製英語で、明確な定義があるわけではありませんが、端的に言うと以下のような行為を指します。

”ドクターハラスメントとは、患者さんの心にトラウマを残すような医師や医療従事者の暴言や行動、態度雰囲気などすべて”

以前、病院内におけるパワハラを記事にしたことがありますが、パワハラが役職や職種間のパワーバランスによって生じるのに対し、ドクハラは治療を施す側と受ける側といった立場の違いによる、パワーバランスによって生じるものと言えるでしょう。

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ドクターハラスメントの分類

ドクターハラスメントという言葉の生みの親、先述の土屋繁裕医師によると、ドクハラは以下のように分類されます。

  1. 人間失格型…人間として許せない程、患者の心を傷つける
  2. ミスマッチ型…医師と患者さんのミスマッチで生じる 
  3. 脅し型…強引に治療に従わせる
  4. ゼニゲバ型…患者の治療や回復よりも病院の利益を優先する
  5. 子どもへのドクハラ型…子どもの治療時に親に向かって行う
  6. セクハラ型…産婦人科などで女性患者を傷つける
  7. 告知型…患者やその家族を絶望に追い込む

非常に細かく分類されていますが、事例を挙げてそれぞれ解説していきましょう。

人間失格型

非情かつ自己中心的な言動を行う医師によって引き起こされるドクハラがこのタイプに当てはまります。

以下のような言葉を医師から浴びせられたという事例があります。

  • 「お前たちはモルモットだ」
  • 「こんな体じゃ、もう嫁にいけないな」

耳を疑うかも知れませんが、病気を治すべき医師の中にはこのような発言をする者も稀にいるのです。

そのような医師たちは、医師免許を持っているため仕事を続けていられますが、そうでなければ本来まともな仕事には就けないかも知れません。

ミスマッチ型

医師と患者さんのミスマッチによって生じるドクハラで、医師側はドクハラをしていることに気づかず、患者さん側の捉え方による要素も大きいため、最も扱いにくいタイプかも知れません。

患者さんに誤解を生んだ、医師からの言葉を2つ挙げてみましょう。

  • 「傷はきれいですね」
  • 「入院してもしかたない」

上記の言葉は一見、特に大きな問題は無いよう聞こえます。

しかし1例目は、「傷『は』きれいだがそれ以外は…」とネガティブに捉える患者さんがいるかも知れません。

2例目は、医師側からすると「『入院するほど悪くないので』入院してもしかたがない」言ったつもりが、患者さん側は「『入院しても治らないから』入院してもしかたない」と捉えてしまうかも知れません。

医師自体に悪意が無くても問題となることがあり、相手のキャラクターに応じた言葉の選び方も必要になってきます。

脅し型

医療従事者と患者さんの知識の差を盾に、脅し文句を言って服従させようとするドクハラがこのタイプになります。

実際に医師が言い放った言葉を2つ挙げてみましょう。

  • 「見えなくなっても知らんぞ」
  • 「脅しじゃないんだよ。手術しなきゃ死ぬんだよ」

このように、自分の判断や治療方針に従わない患者さんに対し、強引に誘導して同意させようとしているのが見て取れます。

いくら正しい治療方針に導こうとしても、脅すようなやり方では信頼を得ることは出来ません。

ゼニゲバ型

医療機関の利益優先のために起きてしまうドクハラがこのタイプになります。実際の事例を挙げてみましょう。

  • 追加で高額な自費診療を勧められた
  • 病院の利益にならないからと入院を断られた

保険診療では国から医療費が決められていますが、自費診療では医療機関側が自由に料金を決めることが出来ます。

そのため自費診療中心の医療機関で、不要と思われる自費診療を次々と追加で勧められた、という声はしばしば聞きます。

それでは保険診療中心の医療機関ではどうかというと、医療費の高騰とそれによる診療報酬の抑制によって、病院と言えど経営に力を入れなければ財政破綻もありえます。

こうした背景から、保険診療中心の医療機関においても、このタイプのドクハラは近年起こりやすくなっているのではと考えられます。

子どもへのドクハラ型

小児科では、医師と患者さんという直接的な関係よりも、医師と患者さんの親との関係が重要視されることも多い、大変特殊な領域です。

そのため子どもへのドクハラは、子どもに直接放った言葉で起こるものだけでなく、その親に対する心ない言葉でも起きえます。

以下のような言葉を医師から浴びせられたという事例があります。

  • 「(この目の前で)将来、特別な仕事にはつけなから」
  • 「母親がそんなだから子どもが病気になるんだ」

子どもの感性はナイーブですので、大人に比べより一層傷付きやすく、今後の人生にも大きく影響を及ぼす可能性があります。

また、子どもをとても心配して病院に連れてきているのに、病気を自分の責任にされた親はどのような気持ちになるでしょうか?そして傷ついた親を見た子どもも同様に心を痛めかねません。

セクハラ型

女性患者さんに対しての、セクハラまがいのドクハラがこのタイプに含まれます。

特に女性を相手にする産婦人科で起きやすく、実際に男性医師から出た言葉を例に挙げてみましょう。

  • 「妊娠するような覚えないでしょ?」
  • 「遊んでばかりいるからこんな病気になるんだよっ!」

いずれも根拠がなく、女性患者さんに対して抱いた先入観によって診察した男性医師の口から出たものです。

このタイプのドクハラは女性の体型や容姿をネタにして行われることもあり、人体を扱う医療従事者には許されざるものです。

告知型

病名を告げる際や、病気によって起こりうる障害や予後を告げる際に行われるタイプのドクハラです。

これらを告知することは、患者さんやその家族の今後の人生を左右する結果になるのため、医師にとって特に神経を使うものです。

しかしごく一部の無神経な医師によって、次のような告知がなされたことがあります。

  • 「無駄なことはしない。どうせ助からないんだから」
  • 「まぁもっても一年ぐらいでしょう」

このようなことを言われた患者さんはどのような気持ちになるでしょうか?実際に厳しい病状なのかもしれませんが、一気に絶望のどん底に突き落とされてしまうでしょう。

一昔前までは、患者さん本人に末期癌の病名や予後などは告知しない風潮がありましたが、現在では告知を行った上で今後の方針を立てていくことが一般的となりました。

とはいえ、何でもストレートに告げるのではなく、デリケートな問題であることを熟慮し、本人の知りたいことと知りたくないことを確認した上で告知は行われるべきなのです。

ドクターハラスメントによって起こる問題点

ドクハラは様々な分類ができることが分かりましたが、実際にドクハラを行うとどのようなことが起こるのでしょうか?考えられるものを以下に示します。

  • 患者さんとの信頼関係が崩れる
  • トラブルが生じた際に訴訟へと繋がる
  • 医師や医療への不信感を助長する

ドクハラを受けたと感じた患者さんは、少なくともその医師や医療者のことは信頼できなくなってしまうでしょう。

信頼関係が崩れると、患者さんが受けるべき治療に同意しなくなる可能性があり、最終的に患者さんの不利益となります。

また、医療行為でトラブルが生じた際、患者さん側から医療訴訟を起こされ、医師や病院が負担を被ることにもつながり得ます。

このように、ドクハラは患者さんと医療従事者双方に、不幸な結果を生み出す可能性がをはらんでいるのです。

また、ドクハラを発端としたトラブルが大々的にメディアで取り上げられてしまうとどうでしょうか?

真面目に医療を提供している医師や病院までとばっちりを受けてしまい、一般の人から医師や医療に対して不信感を持たれてしまうことになります。

大袈裟かもしれませんが、一つ一つの小さなドクハラが国民の医療不信を産み出し、健康維持に影響をおよぼすといった事態につながりかねないのです。

外科医は凄腕であれば性格に難があっても許容されるのだろうか?のまとめ

今回、ドクターハラスメントについて解説し、その分類や生じる問題点を挙げました。まとめると以下のようになります。

  • ドクハラは医療従事者によって起こされ患者にトラウマを残す
  • ドクハラは7つの型に分類されいずれも医師患者間の信頼関係を崩す
  • ドクハラは結果的に患者さん医療者双方に不幸な結果を生み出す

医療従事者は、言葉のみならず仕草や態度であっても、患者にトラウマを残す結果になればドクハラをしたことになるということを肝に銘じておかねばなりません。

そして7つに分類されるドクハラの中には、ドクハラをしていると気付きにくいものもありますが、患者さんとの信頼関係が崩れないよう言動には注意が必要だ、ということを覚えておかなければなりません。

信頼関係が崩れた先には、下手すると患者さんが受けるべき治療を受けなくなってしまう、トラブルが生じた際に訴訟になる、といった可能性があり、双方不幸な結果を生み出すこともあります。

これを踏まえ、改めて外科医は凄腕であれば性格に難があっても許容されるのか考えてみましょう。

外科手術は確かに治療の大きな一角を占めます。

しかし、治療を受ける側の患者にとっては手術結果のみならず、外科医の術前説明や術後の診察なども、その後の人生をどう生きるかに影響してきます。

それを考慮すると、いくら凄腕であっても患者にトラウマを残すようなドクターハラスメントを行う外科医は、決して許容されるべきではないでしょう。

参考文献:

土屋繁裕. ドクターハラスメント. 扶桑社. 東京. 2002

土屋繁裕. ストップザドクハラ. 扶桑社. 東京. 2003

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