専門医資格を取得することは必要?不要?そのメリットとデメリットを検証

スポンサーリンク

TwitterなどをはじめとするSNSでは、定期的に「専門医資格(以下:専門医)は必要か不要か?」「専門医を取得することに果たしてメリットがあるのか?」という議論が度々なされています。

最終的には、意見を出し合う医師たちのポジショントークの様相を呈してしまうため、専門医を取得した方が良いのか、はたまた無くても全く困らないのか、議論上で決着がつくことはありません。

私自身は外科領域の専門医を取得している立場ですが、今回の記事では客観的に専門医を持つことによるメリット・デメリットを検証していきたいと思います。

専門医の定義とは?

そもそも、「専門医」とは一体なんなのでしょうか?その定義を見てみましょう。

各領域に存在する専門医制度を統括している、一般社団法人日本専門医機構によると「専門医」は下記の様に定義されています。

それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、

十分な知識・経験を持ち患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに

先端的な医療を理解し情報を提供できる医師と定義されます。

引用:一般社団法人専門医機構 ホームページより

端的にまとめると、自分自身の従事する領域で十分な経験と知識を持つ医師が「専門医」と言えるでしょう。

なお、専門医を取得するには各学会(外科専門医であれば日本外科学会)に所属して修練(トレーニング)開始の登録を行い、一定期間継続して修練を行う(この期間を後期研修と呼ぶこともあります)必要があります。

何科の専門医を取得するかによって修練期間や取得までの最短の年度は変わってきますが、ここでは一例として、外科専門医取得までの過程をお話ししましょう。

外科専門医取得までの過程

外科専門医を取得するため、まずは一般社団法人日本外科学会(以下:外科学会)に入会する必要があります。

外科学会自体の入会自体は、初期研修医の期間を含めいつでも入会することが可能です。

入会後、外科学会専門医取得のための修練開始の登録を行い、下記の様な過程を経て最終的に専門医を取得するに至ります。

  • 修練開始の登録を行ってから満4年が経過する
  • 予備試験(マークシート式)を受ける
  • 以下の必要事項を満たし認定試験(面接と口頭試問)を受ける
    • 予備試験の合格証
    • 規定された業績をこなす(学会発表ないしは論文発表)
    • 規定された手術件数をこなす(執刀120例を含む計350例)
  • 認定試験合格後に認定料を支払い外科専門医として認定される

以上の様に、規定の年数を経過した上で、その間手術経験や業績を積み、2回の試験をこなして外科専門医として認められることになるのです。

すなわち、初期研修医1年目から外科学会に入会したとして、予備試験を受けるのは最短で卒業後5年目、本試験を受け外科専門医を取得できるのは最短で卒業後6年目ということになります。

外科専門医取得までにかかるコスト

続いて外科専門医を取得するまでにかかる、コストについても考察してみましょう。

外科専門医を取得するためには、修練を行なっている期間、外科学会に所属し、会費を払い続けておく必要があります。

また、予備試験や本試験に申し込む際、合格後に専門医と認定してもらう際の認定料というのもかかってきます。

試験対策に用いた教科書や問題集、試験会場に行くまでの交通費用や宿泊費も取得までにかかるコストと言えるでしょう。

以下に費用をまとめてみます。

  • 外科学会入会手数料…2,000円
  • 外科学会会費…10,000円/年
  • 予備試験受験料…11,000円
  • 本試験受験料…22,000円
  • 認定料…44,000円

※いずれも2020年2月現在

前述の通り、最短で外科専門医を取得するのが卒後6年目であることを考慮すると、取得までにかかる最低費用は、

2,000円+10,000円×6年+11,000円+22,000円+44,000円=139,000円

そして、この金額に毎年開催される学術集会への参加費、書籍代、移動費などが加算される計算となります。

また、専門医を維持するために通常は学会に入会し続けると思いますので毎年年会費10,000円がかかる計算となります。

さらに5年毎に専門医資格の更新が必要となり、その申請手数料に11,000円、登録料に11,000円がかかります。

このように、専門医資格は取得するだけでなく、その後維持していくのにもある程度の費用が掛かってくるのです。

通常、一線で活躍している外科医達は、外科専門医に加えてそれに連なる複数の専門医(いわゆるサブスペシャリティ)を持つことも少なくありません。

当然複数の専門医を持つと、その数だけ取得のための費用、取得してからはその維持費が嵩むことになります。

専門医を取得するメリット

専門医を取得するためには、それ相応の修練期間、および費用がかかることが分かりました。

それでは、そこまでの投資を行ってまで専門医をとるメリットはどこにあるのか考えてみましょう。

想定されるメリットとして以下のものが考えられます。

  • その科で然るべきトレーニングを受けた証明となる
  • 専門医取得を目指す過程で臨床能力が高まる
  • 出世を目指す際には専門医が必要な場合がある

専門医の取得にはこれだけ年月がかかるわけですから、当然集中してその領域のトレーニングを行うことになります。

そして、専門医取得に必要な経験を積む過程そのものが、自分自身の臨床能力を高めることに繋がります。

例えば外科系の専門医を申請するためには、一定数の執刀の経験が求められますので、全く執刀したことのない人が専門医となることはありません。

また、大学の医局などで出世を目指す際、大学の関連病院などで要職に就く際には、専門医の上級資格である「指導医」の資格が必要となるため、専門医を取得することがほぼ必須となります。

そう多いケースではありませんが、特定のクリニックなどでは採用の条件として専門医の有無が問われることもあります。

総合すると専門医を取得する最大のメリットは「その領域で然るべきトレーニングを積んでいることを客観的にわかってもらえる」ということに集約されるのではないでしょうか。

専門医を取得するデメリット

それでは逆に、専門医を取得するデメリットはあるのでしょうか?

よく聞く意見としては以下のようなものが挙げられます。

  • 非効率的な勤務をしなければいけない場合がある
  • 維持するのに費用がかかる
  • 金銭的なメリット(インセンティブ)がほぼない

2018年から新専門医制度が導入され、以前より専門医を取得するための研修プログラムが複雑になりました。

さらに、シーリングと呼ばれる医師の偏在を是正するために設けられた、地域別の修練医師(専門医取得のトレーニングを行なっている医師)の定員などの影響で、以前より修練期間中の勤務地などに関して柔軟性がなくなってきているように思えます。

よって、以前に比べて転勤が多くなったり、給与面で不利な病院で勤務しなければならなかったりと、時に非効率的な勤務を選ばなければ専門医を取得できない状況も出てきています。

また、前述の通り専門医を維持し続けるにも費用はかかりますし、外科系の専門医では、「規定された期間に規定された数の手術に携わらなければならないと次回の専門医が更新できない」といった厳しい制約があります。

そして、恐らく専門医取得不要派が考える最も大きなデメリットの一つに、給与面に関することが挙げられます。

アメリカを含む他の先進国では、専門医を取得することによって給料が跳ね上がることがありますが、残念ながら本邦では専門医の有無で給料が変わることは殆どありません。

外科領域においても、専門医と非専門医の行なった手術点数(料金)に差は全くありません。

時間とお金を投資した割には、享受する金銭的メリットが殆ど無いことは、自由に勤務したい医師にとっては足枷となり、早いうちから自由診療などで稼ぎたいという医師にとってもデメリットとなると言えます。

専門医の資格を取得することは必要?不要?のまとめ

以上、専門医とはなんなのか、そして専門医を取得するメリットとデメリットについて考察してみました。

以下に簡単にまとめてみましょう。

  • 専門医を取得するまでには長い年月とそれなりの費用がかかる
  • 専門医を取得することは十分な修練を積んでいるという証明になる
  • 専門医を持っていても金銭的なメリットを享受することは殆どない

専門医を取得するためにはそれなりに長い修練期間と費用が掛かります。

裏返せば、専門医を取得しているということは、取得の過程で集中して修練を積んだという対外的な証明にはなります。

現在のところ専門医を持っていても給与面で優遇されることは殆どありませんので、取得までの手間はデメリットと考える医師もいるでしょう。

私自身は専門医を取得するために修練を積んできたというよりは、追求したい仕事を行っていく過程で自然と専門医を取ったため必要か不要かについて深く考えたことはありませんでした。

専門医をすでに持つ者の立場としては、専門医の資格そのものよりも、専門医を取得する過程で得る臨床経験に最も価値があるのではないかと思います。

そういう意味で、本邦における専門医の資格は、それ自体が価値を生み出すというよりは努力目標と言えるでしょう。

ただし、専門医が必要か不要かの論争にはどちらの意見も一理あります。その医師自身が選ぶ進路によって必要か不要かは大きく変わってくるからです。

大学で出世を目指すのであれば、専門医の取得は必須ですし、クリニックの経営や専門性を問われない勤務先を選ぶのであれば、専門医を取得する必要は必ずしもありません。

将来的に専門医の有無によってインセンティブが付く未来も考えられますが、自分がどういう方向性の医師になるかをじっくり考えて、専門医の取得を検討してみると良いでしょう。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 水谷博美 より:

    三菱京都病院で大腸ガンの手術を10月に消化器外科でお世話になりました水谷博美と申します。
    手術、主治医は、堀先生でしたが、
    田中先生にも退院の前の日の回診と、12月に血便で外来で丁寧に診察してもらいました。その節は、ありがとうございました。
    堀先生は、3月に辞められる事は、1月の定期検査の時に知りましたが、他の知ってる先生は、そのままいはるものと思ってましたが、4月1日に三菱病院のホームページ見ると、私の知ってる入院中診てもらった事がある田中先生も高見先生も辞められたみたいで消えてました。
    田中先生のブログを興味深く読ませていただきました。
    医師って大変ということや、色々知らない事を知れて興味深く読んで為になり勉強になりました。
    先生のホームページの写真の下に英語で書かれてますが、病院を開業されたのかなあと思い、開業だったらおめでとうございますって言いたいのと。ブログを興味深く読ませていただきましたっていう事が言いたくて。
    田中先生も患者さんの立場を思いやって、距離感とかも、患者さんへのため口、敬語の話とか、医師も患者さんに色々と気を使って接してはるんやなあと思いました。
    三菱病院も医師は、異動が多いみたいですが、一度に消化器外科医でお世話になった事がある堀先生初め3人が居られなくなり、さびしいですが。
    田中先生も診察してもらっていて凄くいい先生だなあと感じました。
    ブログに書いてある通りに信念を持たれていて、優秀やし、凄く丁寧な敬語で接して頂いて安心感、信頼感があります。
    開業されてお忙しいとは、思いますがまたブログ書かれたら読ませて頂きます。
    お仕事頑張ってください。
    私は、あれから三菱病院の眼科でお世話になり、今は、泌尿器科で血尿が出て、検査結果を来週の火曜日に聞きに行きます。
    どうも血尿の原因が尿管に腫瘍が出来てるかもしれないやっかいな事になってます。
    今朝もびっくりしたんですが、血のかたまりが2センチ四方のが出て不安ですが、火曜日に行くので。
    病気続きで、凹みます。