医学部卒業後の進路選択について、総論編の記事では実に多数の道が開かれていることを取り上げました。
そして臨床医を目指す場合の勤務形態は大きく以下のように分類できることをができました。
- 勤務医
- 開業医
前回の記事では勤務医を目指す場合の詳細を説明をいたしましたので、今回は開業医になる場合について検証していきたいと思います。
開業医になる場合
開業医を目指す目的は様々だと思いますが、以下のような理由が多い印象があります。
- 実家が開業しており継ぐ必要がある
- 自分の理想とする医療を組織(病院)に縛られず実践したい
- 勤務医よりオンオフのある生活を送りたい
- 勤務医より稼ぎたい・税制面でアドバンテージを得たい等
実家が既に開業しており、継ぐ予定で医学部に入学した場合はよっぽどのことがない限り進路変更することはないと思います。
また、勤務医は大きな問題を起こさない限りクビにはならないため、安定して働くことができる一方、組織が大きいと個人の意見が簡単に通りにくかったり、拘束時間が長い、額面の給料は高くても税制面で開業医に比べ不利になります。
そういった理由から、元々は開業医を目指していなくても勤務医を続けているうちに進路を変更することも出てくると思います。
いずれにせよ開業医を目指す場合、通常は勤務医からスタートしてある程度臨床経験を積んだ後に勤務医時代に身につけた経験を活かして開業するケースがほとんどだと思いますので、以下の記事も参考にしていただけたらと思います。
開業医といっても、無床診療所の院長から複数の病院を経営するオーナーまで幅広くいますが、ここでは開業医の大半を構成する、医院(無床診療所もしくは19床以下の有床診療所)を運営する開業医になる場合に絞って説明していきたいと思います。
実際に開業医となって医院を開設するには、次の方法が挙げられます。
- 新規開業を行う
- 医院を承継する
それではそれぞれの場合について詳しく見ていきましょう。
新規開業を行う場合
後述する医院を承継する場合以外で開業医になるためには、原則ゼロから新規開業することになります。
新規開業を行う場合、大きく次の2通りの方法があります
- 土地の選定から医療機器の納入まで自力で行い開業
- 医院開業コンサルタントを利用して開業
現実的には全てを自力で行い開業するのはとても困難ですので、実際は部分的にもしくはほとんどの過程を医院開業コンサルタントを利用して開業することになると思われます。
ここで注意しなければならないのが、ひとえに開業コンサルタントといっても土地の選定をメインにしたコンサルタントなのか、医療機器の選定を得意としたコンサルタントなのか、医院経営の戦略を立てるコンサルタントなのかなどバックグラウンドに違いがありますので、医院開業コンサルタントを選定する際は注意が必要です。
それでは医院を新規開業する場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 自分の納得のいくコンセプトで開業することができる
- 立地や収益性を十分にシミュレーションした上で開業できる
- デメリット
- 開業のためのコストがフルにかかってくる
- スタッフや患者の獲得をゼロから行わなければいけない
全て自分でプロデュースし、思うままの医院を開設することができるのが最大のメリットかと考えられます。ただし、土地建物の取得費用ないしは改装費用に加え、スタッフや患者も新たに獲得しなけらばなりませんので、十分に収益が見込めるとシミュレーションを行なった上で新規開業を検討すべきでしょう。
医院を承継する場合
新規開業以外で開業医となる場合、すでに存在する医院を継承するという方法があります。すでに医療機器やスタッフ、かかりつけの患者がいるので新規開業よりメリットが大きい点があります。
医院を継承する場合の経路として次の2通りが挙げられます。
- 親・親族からの承継
- 第三者からの承継
親や親族がすでに医院を開業していて継承する場合は第三者から承継する場合に比べて医院の立地や内情を把握し易いですのでメリットは大変大きいです。
ただしその反面、当然のこととして親・親族が医院を開業していないことにはこの経路で承継することはできませんので、その際は第三者から継承することになります。第三者からの承継は、もちろん医師間の繋がりを利用して情報を得ることもありますが、現在は医療系の転職業者から医院承継の情報を得ることもできます。
なお、継承に当たっての譲渡価格は無償から数億までかなり幅があります。必ずしも収益が低いので譲渡価格が安いというわけではなく、院長が病気で継続できない、急に院長が亡くなったなどすぐに後継者が必要となった場合は無償譲渡となることもありえます。
それでは医院を承継する場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 新規開業に比べて初期投資がかからない
- 医院のネームバリュー・患者・スタッフをそのまま継承できる
- デメリット
- 原則的に継承元の医院のコンセプトを大きく変更するのは難しい
- 立地・譲渡価格・承継のタイミングなど全ての面で満足いく承継案件を得るのは運が必要
最大のメリットはやはり新規開業に比べて大きくコストを浮かすことができる点でしょう。そのまま居抜きで使用する場合は建物の建築費用や内装費用、検査機器等を浮かせることができるうえに、スタッフや患者もそのまま引き継ぐことが可能であるのが一番のメリットになります。
ただし、専門は整形外科なのに消化器科の医院を承継するなど専門と全く違う医院を承継して運営することは難しいと考えられますし、承継元の医院のカラーを引き継ぐため、コンセプトを大きく変更して引き継ぐのはハードルが高くなります。
さらに第三者から承継する場合などは、承継のタイミングが必ずしも自分の考えている時期と合致するとは限りませんし譲渡価格等で次第ではその他の条件が満足いくものであっても折り合いがつかない場合も考えられます。
以上のように、新規開業する場合に比べて運の要素やタイミングも必要となってくるのが医院を承継する場合の特徴です。
開業医になる場合のまとめ
以上、医学部卒業後の進路選択として、開業医を目指す場合について検証していきました。それではタイプ別に開業医を目指す場合のおすすめの方法をまとめてみましょう。
- 自分の理想をフルに実践できる開業医になりたいタイプ→新規開業
- コストをかけずタイミングが合えば開業医になりたいタイプ→医院を承継し開業
明確な目標があり、自分の理想とする医院を作りたい、また開業する時期をしっかりと計画立てて設定したいタイプはゼロから新規開業するのが良いでしょう。
逆に、多少のこだわりは犠牲にしてもタイミングが合えばコストをかけずに開業したいというタイプは、承継院の紹介業者に登録しておいてチャンスが訪れた際に開業を、ぐらいに構えておくのが良いかもしれません。
私自身は現在勤務医の外科医として不満なく仕事をしておりますが、ライフスタイルの変化などにより気が変わって開業したくなった時のために、業者に登録して特定の地域で承継案件が出た際は連絡をもらうようにしております。
また、これから開業医を目指す際に重要なことは以下の点だと考えられます。
- 臨床技術を高める
- 数字に強くなる
- コミュニケーション能力を高める
一般的な開業医は、通常目の前の患者相手に日々自分の持っている臨床能力を発揮していくことになります。大きな病院で勤務医をする場合と違い、病院の看板よりも自分の腕が収益に繋がっていきますので臨床技術を高めていきましょう。
さらに、開業医は基本的には経営者となります。ですので数字に強くなければいくら臨床能力が高くても経営が行き詰まるリスクもある、といことを念頭に置いておかなければいけません。
特に新規開業を行う際には、通常は金融機関からの融資を受けることがほとんどですので、コンサルタントや税理士任せにするのではなく、自分自身でもざっと収益計算が出来るようにしておき、リスクとベネフィットを判断できるようにしておくべきだと思います。
ただし、開業医として成功するためには患者やスタッフに対して良好なコミュニケーションが取れることも必要です。患者や訪れないことには収益は生まれませんし、スタッフが定着しなければ診療もうまく回りません。
将来、開業医を目指す際には医療技術はもちろんですが、経営についての基礎知識を身に付け、コミュニケーション能力やマネージメント能力も高めていきましょう。