医学部卒業後の進路選択の道は多数開かれていることを以前の記事では説明いたしました。
臨床医として病院やクリニックで、研究医として大学や研究機関で働く以外に、一般的なサラリーマンと同じような雇用形態で企業所属の医師として勤務する進路もあります。
臨床医のように病院に束縛されたり、研究医のように答えのないものを探求し続ける勤務形態よりもワークライフバランスを重視するタイプに向いている進路とも言えます。
それでは企業所属の医師になる進路を選択した場合について検証していきたいと思います。
企業所属の医師として働く場合
企業所属の医師といえば真っ先に産業医を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、企業所属の医師として以下のような進路があります。
- 企業の産業医
- 製薬企業所属の医師
- 保険会社所属の医師
ではそれぞれの進路について検証していきましょう。
企業の産業医になる場合
従業員が1000人以上の企業では専属の産業医を雇用する必要がありますので、日本の企業の数を考えると一定のニーズがあります。
産業医の仕事は、従業員の健康相談や職場環境の巡視など多岐に渡ります。公衆衛生学や内科の基礎的な知識、また近年多いメンタルヘルスの相談に対応することを考えると精神科の知識も活きてくる分野です。
前提として、産業医として企業に就職するためには医師免許の取得以外に下記の要件を満たす必要があります。
- 産業医科大学を卒業する
- 産業医学基礎研修を修了する
- 労働衛生コンサルタント(保険衛生区分)に合格する
- 大学の労働衛生に関する科目の講師以上になる
産業医科大学を卒業する、もしくは産業医学基礎講習を修了することで認定産業医の資格を得ることができ、産業医として勤務することができます。
その他のルートとして、合格率は30%程度と低めですが労働衛生コンサルタントの保険衛生区分に合格することで同等の資格を得ることができ、また公衆衛生学など労働衛生に関する科目の現役の教授、准教授、講師、もしくはその経験がある場合も産業医として勤務する資格を得ることができます。
それでは産業医として勤務する場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 当直等なく臨床に比べるとオンオフがはっきりした勤務体系である
- 予防医学や公衆衛生学的な視野から疾患を広く見ることができる
- デメリット
- 産業医科大学を卒業していない場合は勤務の合間を縫って試験勉強をしたり研修に参加しなければいけない
- 一般的な医師の転職市場に求人が開かれていないことが多い
夜間や休日の当直や緊急の呼び出しがなく、オンオフがはっきりしているのは大きな魅力だと考えられます。
また、一人一人の患者を治療していく臨床と違い、予防医学の観点からより大局的に疾患を考察することが出来るのも産業医の魅力です。
しかし、上記の通り産業医科大学を卒業していない医師は産業医になるためには認定を受けるために研修を受けたり、試験にパスする必要があります。
多忙な臨床医から産業医への転職を考える際は、仕事の合間を縫って資格を取得する必要があります。
また、産業医の求人はあまりオープンになっていないため、いざ産業医への転職を検討する際は専門の転職エージェントなどを利用する必要があります。
製薬企業所属の医師になる場合
産業医以外の企業に属する働き方として、製薬企業に所属し新薬の開発やリリースなどに携わることも出来ます。
大手製薬企業では主に以下の3部門で医師が活躍しています。
- 臨床開発部門
- 安全性情報部門
- メディカルアフェアーズ部門
製薬企業で働くというと新薬の開発というイメージがあるかも知れませんが、臨床開発部門はまさに新薬の臨床試験に携わる部門です。
安全情報部門はその名の通り薬剤の安全性、副作用の評価などに携わる部門です。
メディカルアフェアーズ部門は最新の薬剤情報を医療機関に提示したり等、マーケティングなどに携わる部門です。
それでは製薬企業に所属する医師として勤務する場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 製薬企業の豊富な資金を用いて大きなプロジェクトに携わることができる
- 当直等なく臨床に比べるとオンオフがはっきりした勤務体系である
- デメリット
- 海外のチームとディスカッションすることが多く英語が不得手な人には向かない
- 周りからいわゆる「お医者さま」扱いされたい人には向かない
大手製薬企業では豊富な資金をもって新薬開発からマーケティングまで投資することができます。自分が携わった新薬が全世界にで使用されることになれば社会に大きく貢献できたというやり甲斐も生まれるでしょう。
また、入院患者を受け持つわけではないので、緊急の呼び出しや当直などはないためオンオフははっきりしています。
しかし製薬企業は日本企業、外資系企業問わずグローバル企業ですので、海外チームとのディスカッションがほぼ必須です。
採用基準にもTOEIC高得点が求められたりと、英語が苦手な人には向いてないでしょう。
製薬企業での勤務は病院での勤務と違い、いわゆる企業の一員となりますため、周りも「お医者さん」扱いしてくれるわけではありません。
病院勤務で他のスタッフに上から目線で接してきた人も向いていないでしょう。
さらに、製薬企業は原則一定の臨床キャリア(5年以上)や研究の経験を求めてくるので、卒業後すぐに製薬企業で働くのは難しいです。
保険会社所属の医師になる場合
いわゆる保険社医(社医)と呼ばれるものになります。生命保険などに加入された際に、最終的な契約前に医師から健康状態をチェックされた経験がある方もいるのではないでしょうか?
加入予定者の自宅を訪問し、問診や聴診、血圧測定などを行ったり、保険の査定を行ったりするのが社医の主な仕事になります。
それでは保険会社所属の医師になる場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 専門的な経験がなくても勤務できる
- 当直等なく臨床に比べるとオンオフがはっきりした勤務体系である
- デメリット
- 多様な疾患を診る臨床に比べて仕事が単調に感じるかもしれない
- 臨床医に戻る際のハードルが高くなる
社医の採用には産業医や製薬会社所属の医師に比べると特殊な技能や資格を求められないことが多く、初期臨床研修終了後すぐに勤務することも可能です。
なお、企業所属の医師全般的に言えることですが、休日通りに休みがしっかり取れるのは大きなメリットと言えます。
ただし、しばらく勤務していると臨床医の仕事に比べると変化の乏しい仕事内容に感じてしまうかも知れません。かと言っていざ臨床医に戻ろうと思っても、オンオフのはっきりしている勤務に一度慣れてしまうと、なかなか元の忙しい勤務形態は戻り辛く感じてしまうかも知れません。
企業所属の医師になる場合のまとめ
以上、医学部卒業後に企業所属の医師となる進路を選択した場合について検証してみました。
実際には医療機器メーカーへの就職などもありますが、母集団が少ないため今回は割愛しております(製薬企業所属の医師も全国で数百人程度です)。
それでらおすすめの進路選択をタイプ別にまとめてみましょう。
- 公衆衛生や予防医学に興味があり企業の衛生面をマネージメントしたい→産業医として働く
- 英語が得意で大きなプロジェクトに携わる一員として活躍したいタイプ→製薬企業で働く
- しっかり休みの取れる勤務形態を取りたいタイプ→保険会社で働く
医学部卒業後に企業での勤務を選択する医師はそう多くありませんが、一定のニーズがあり何よりオンオフがしっかり取れるというのは大変魅力的です。
いずれの求人もオープンになっていないことが多いですので、興味があれば転職エージェントなどに相談してリサーチしていきましょう。