医学部卒業後の進路選択の道は多数開かれていることを以前の記事では説明いたしました。
今回は研究医になる場合についてお話ししていきたいと思います。
臨床医がこれまでに蓄積された医学の知見を患者に対して実践するのに対して、研究医は主に将来の医療に応用されるべき治療などの礎を発見していきます。
既に出来上がったものを応用するのでなく、未知な分野に挑戦してい人が目指すべき進路だと考えられます。
研究医と言っても基礎研究を行う医師から臨床研究、公衆衛生学の研究を行う医師まで幅広く存在しますが、ここでは分かりやすく一般的にイメージされる生化学、生理学、免疫学と言った基礎医学の研究を行う医師を想定したいと思います。
それでは研究医を目指す場合について検証していきましょう。
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研究医になる場合
研究医を目指す場合、進路として以下の3通りが考えられます。
- 医学部卒業後すぐに研究医となる
- 医学部卒業後しばらく臨床を行なったのちに研究医となる
- MD-Phdコースを利用し医学部4年生終了後に研究を開始する
大きな違いとして、医学部を卒業してから研究医となる場合は原則的に医師国家試験を受験した後に研究医となることになります。
MD-Phdコースを利用する場合は医学部生の途中で研究を開始するので医師国家試験を受験する前に研究医の道へ踏み込むことになります。
それではそれぞれの場合について詳しく見ていきましょう。
医学部卒業後すぐに研究医になる場合
この進路では医学部の卒業試験そして医師国家試験を受験し、卒業したのちすぐに大学院に入学と共に研究室に所属し、研究医への道を歩みます。
それではこの場合のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 研究医としてのキャリアを早く積むことができる
- 医師免許を取得しているので臨床にいつでも復帰できる
- デメリット
- 初期臨床研修を修了していないので臨床のアルバイトは出来ない
- 研究が臨床にどのように活きるのかイメージしにくい
医師国家試験を受験したのちに研究医の道へ入ることになりますので、医師免許を有して研究を行うことができるのが大きなメリットと言えると思います。
もちろん医師免許を取得することと研究そのもので良い成果を出すことは本質的に違います。しかし医師免許を有していることで、気が変わった際に臨床医にいつでも復帰することが出来ますし、分野によっては医師免許がなければ研究に伴う業務(病理学における解剖・病理診断など)に制限が出てしまい困難な場合があります。
しかし、医師免許を有していても2年間の初期臨床研修を修了していなければ保険医の登録が出来ないため、空いた時間に臨床関連のアルバイトを行って副収入を得ることはできません。
研究を開始して役職が付くようになるまでの大学院生の時代は、しばらく学費を払わないといけませんので金銭的な余裕は得られないかも知れません。
また、臨床を経験していないと自分の研究が実際の医療現場にどう活きるのかなどがイメージしにくいかも知れません。
医学部卒業後しばらく臨床を行なったのちに研究医となる場合
この進路では卒業して大学院に入学し研究を始めるまでしばらく臨床を行うことになりますが、さらに以下の2つのパターンが考えられます。
- 初期臨床研修のみ修了し保険医の登録まで行い研究医となる
- 初期臨床研修修了後もしばらく専門の科で臨床を行った後に研究医となる
初期臨床研修を修了することで、保険医の登録を行うことが出来ます。保険医の登録を行うことで、研究の傍ら検診や当直など臨床のアルバイトを出来るようになります。
また、初期臨床研修医を修了ししばらく内科、外科と言った専門の科で臨床を行なった後に研究医となるケースもあります。
多くの臨床医、特に大学医局に所属している医師は臨床を数年間行なった後に一旦大学院に入学し、博士号取得を目指し、その後臨床に復帰するのが通常です。
しかし中には、大学院入学を契機に研究に興味を持ち研究医の道へ転換する医師もいます。
それではこの進路のメリット・デメリットを検証していきましょう。
- メリット
- 研究の傍ら高額な臨床のアルバイトもできる
- 臨床で得た疑問点を研究に活かすことができる
- デメリット
- 研究を開始するタイミングが2年~数年間遅れてしまう
- 臨床を続けていくうちに研究医となるモチベーションが下がる
初期臨床研修を行わずに大学院に入学し研究を開始する進路に比べたメリットは、やはり臨床のアルバイトをすることが出来ることだと思います。
駆け出しで収入のない大学院生時代も、高額な臨床のアルバイトを空いた時間に行うことで乗り切ることが出来るでしょう。
また、臨床をしばらく行うことで現在の医療に何が必要なのか疑問を持つことが多々あります。そうした疑問を解決しようという気持ちは研究を行ううえで大きなモチベーションに繋がります。
ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥教授も整形外科医として働いている際に重症患者を救おうと研究医を志したエピソードは有名ですね。
ただし、初期研修を修了してから研究を始めると卒業後ストレートで研究を始めた場合に比べ、研究医として最低でも2年間の遅れが生じます。
この遅れを本当にデメリットと捉えるかについては正解はないと思いますが以下リンクにあるように、現役の基礎医学講座の教授からは初期研修を経て研究の道に入ってくるのは本気で研究医を目指すのであれば時間の無駄である、という意見もあります。
教授からのメッセージの詳細はこちらを参照して下さい。
また、当初は研究医を志していても臨床の楽しさや待遇の良さを実感すると研究の道から興味がシフトしてしまう恐れもあります。
MD-Phdコースを利用し医学部4年生終了後に研究を開始する場合
MD-Phdコースとは聞き慣れない方もいると思いますので簡単に説明します。医学部4年生終了後、早期に研究の頭を作るために医学部を一旦休学し、大学院に入学して研究を開始します。そこで3~4年間研究を行いPhd(医学博士号)を取得します。その後に医学部5年生に復学し卒業、医師免許取得を行います。
全ての医学部に存在するコースではありませんが、通常医学部ランキングの上位に位置する大学には用意されています。
下記のページに実際にMD-Phdを解説している大学からの詳しい説明があるので紹介させて頂きます。
それではこのコースのメリット・デメリットを検証してみましょう。
- メリット
- 他のどのコースよりも早く研究の道に進むことができる
- アメリカなどではエリート扱いされるコースである
- デメリット
- MD-Phdコースがある医学部は限られている
- 大学院卒業後は元々下の学年の学生と実習や授業を受けなければならない
やはりこのコースのメリットは若いうちに研究を開始することで、医学部卒業後に開始する人に差をつけることが出来るところにあります。
他の理系学部では学部4年生で研究室に配属されることを考えると、医学部を卒業してすぐに研究室に入っても3年の遅れになってしまいます。その差を埋めるという意味でも大きな意義のある進路だと思います。
MD-Phdコースの歴史が日本より長いアメリカではこのコースの卒業生の多くが一流の研究者としての道を歩ため、エリートコースに位置付けられております。
しかし、MD-Phdコースは日本の全ての医学部にあるわけではありませんので、自分の入学した大学になければ当然この進路をとることはできません。
また、大学院を卒業して医学部5年生に復帰する際はもちろん3~4学年下の後輩の学年に入ることになるので、それに抵抗があるのであればデメリットとも言えます。
いずれにせよこのコースでは他のあらゆるコースより研究医への道へ踏み出すことができます。
研究医になる場合のまとめ
以上、医学部卒業後に研究医となる場合について検証いたしました。それではタイプ別に研究医になる場合のおすすめの進路選択をまとめてみました。
- 早くから研究を開始したいが学部はストレートに卒業したいタイプ→医学部卒業後すぐに研究医になる
- 臨床からヒントを得たい・臨床に戻る保険をかけておきたいタイプ→臨床の経験をしばらく積んで研究医になる
- 研究医になることはほぼ決めていて誰よりも早く研究を開始したいタイプ→MD-Phdコースに入る
大学への研究費が減額されつつあるなど様々な社会情勢の影響に加えて研究医となる医学生が少なくなっているのが現状です。
医学の進歩は医学研究なしではあり得ませんので、未来の医療に貢献したい、なにか大きなことを医学の歴史に残したいという志のある人は是非進路の選択肢として検討してみましょう。