体の中に石ができる石の中で、最もポピュラーなものの一つは胆石ではないでしょうか?
胆石の正式な名称は胆嚢結石(病気の名前としては胆嚢結石症)ですが、その名の通り胆嚢(たんのう)の中に石ができる疾患で、時に腹痛をきたしたりして患者さんを悩ますことがあります。
身近な方でも、胆石ができて胆嚢を摘出する手術を外科で受けた、という方がいらっしゃるかも知れません。人間ドックを受けられた方の中には、腹部超音波検査(エコー)で胆嚢に石を指摘されたことがある方もいらっしゃるかも知れませんね。
胆石は食べ物が原因でできるのか?胆石ができたと指摘されたら必ず治療を受けないといけないのか?胆石があるとどんな症状を起こすのか?これらの疑問と実際の治療方法について答えていきたいと思います。
Contents
胆石はなぜできる?胆嚢の役割も考えてみる
胆石のできる場所である胆嚢は、一部分が肝臓にへばりついている袋の形をした臓器です。下の図のように、胆嚢は胆嚢管という管状の構造物を介して総肝管(そうかんかん)と合流し、1本の総胆管(そうたんかん)となり十二指腸へと繋がります。
胆嚢の役割について説明していきます。まず肝臓の中では胆汁(たんじゅう)という消化酵素が作られます。胆汁は肝臓の中で張り巡らされた胆管という管を通って最終的に十二指腸まで輸送されるのですが、図の黄色矢印のように肝臓の中で網の目のように存在する胆管を流れてきた胆汁は、一本の幹のような総肝管へと辿り着きます。
総肝管に流れてきた胆汁の一部は、胆嚢管を通って一旦胆嚢に蓄えられます。十二指腸に食べた物が流れてきた際、胆嚢がぎゅっと収縮して蓄えられていた胆汁が総胆管から十二指腸へ流れていき、消化を効率よく促します。要するに胆嚢は消化液を一時的に蓄えておく、袋の役割をしているわけです。
胆石は、胆嚢に蓄えられる胆汁内に分泌されたコレステロールやカルシウム、ビリルビンという成分が、胆嚢の中に蓄積されることによってできると言われています。
胆石ができやすくなる原因
胆石ができやすくなる原因としては、これまで様々なものが研究されています。胆石ができる原因として因果関係があると報告されているものとして、下記が挙げられます。
- 食生活習慣(高い摂取カロリーや炭水化物・糖質の過剰摂取など)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高くなる体質)
- 急激な体重減少
- 胆嚢および腸の機能低下
それではそれぞれの詳細を説明します。
食生活習慣との因果関係
食べ物と胆石の因果関係について、様々な論文が報告されています。特に、高いカロリー摂取量や炭水化物、糖質、動物性脂肪酸の過剰摂取は胆石ができるリスクを高めるとされており、逆に果物や野菜、適度なアルコール摂取などはリスクを低下させるとされています。
脂質異常症との因果関係
体質的に血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなる、脂質異常症という病気があります。何タイプかあるのですが、特に中性脂肪が高くなるタイプの脂質異常症は胆石ができるリスクを高めるとされています。
急激な体重減少との因果関係
高いカロリー摂取量や脂質異常症から、肥満体質の方に胆石ができやすそうだと想像できると思いますが、逆に急な体重減少やダイエットも胆石をできやすくすることが研究で知られています。
胆嚢および腸の機能低下との因果関係
胆嚢の動き(収縮する機能)が悪くなることでも胆石ができやすくなることが知られています。胃癌などで胃の手術を行った際に、胆嚢の動きをつかさどる神経を切ることが多いのですが、そういった患者さんで術後何ヶ月か経って胆石ができるのをよく見かけます。
胆嚢の動きのみならず、腸の動きが悪くなり食べたものが腸内に止まる時間が長くなっても胆石ができやすくなることも研究されています。
そのほかの因果関係
また、まれな原因ではありますが、特定の抗生剤(セフトリアキソン)の投与が原因で偽胆石と呼ばれる石や泥が胆嚢内に短期間のうちにできることも知られています。
胆石ができやすい人
医学部生や医師の間では胆石ができやすい人の特徴を、それぞれ英語に直した際の頭文字(fatty, forty, female, fecund)をとって4Fと言って覚えます。日本語に直すと以下のようになります。
- 肥満体質
- 40代
- 女性
- 多産
胆石ができる原因でも触れましたが、高いカロリー摂取量と胆石の形成に因果関係が示唆されていることから、肥満体質だと胆石ができやすいと何となく想像がつきますね。胆石は40代で発症しやすいとされていますが、50代から60代で多いという研究結果もあります。
また、女性に胆石ができやすいのはなぜかというと、女性ホルモン自体が胆石のリスクとされているからです。女性は男性の2~3倍胆石ができやすいという欧米の研究があります。また、妊娠の回数が増えるほど胆石ができやすくなる可能性があると言われています。
追加ですが、胆石ができやすい人にfair(=白人)を加えて5Fと言うこともあります。アジア人より白人の方が胆石を持っている割合が高いということになりますが、もちろん胆石はアジア人である私たち日本人でもよくみられます。
胆石の存在を確認するための検査
胆石の診断を受けた方の中には、ほかの検査は人間ドックでたまたま見つかったというパターンの人も多いですが、実際に確定診断を行うためには以下に挙げる検査が大変有用です。
- 腹部エコー
- CT
- MRI(MRCP)
腹部エコーは超音波の反響を利用した検査で、CTはX線を用いて体を断層状に撮影する検査、MRIは磁気の共鳴を利用した検査、になります。
腹部エコーはCTに比べると機械も小さく手軽に検査を行えますし、CTのようにX線による被曝もありません。ただし、検査する側の技量によってうまく胆石を映し出せるか、その精度は変わってきます。
CTも診断には有用ですが、胆石の中にはCTには写らないもの(カルシウム分が少ないコレステロール性の結石)もありますので、胆石の存在を証明するという意味ではMRIが最も精度が高くなります。
ただし、特殊な造影剤を投与して撮影するDIC-CTという検査であればMRIと同等の精度を持って診断することができますので、CTが診断を行うのに必ずしも不十分な検査というわけではありません。
また、MRIでは胆嚢とそこにつながる総胆管などが、どのような形をしているか撮影することができ、手術を行う際の胆嚢周囲の解剖の把握にも大変役立ちます。
検査の精度としては大変高いMRIですが、欠点としては狭い土管のような装置の中で、じっとして撮影しなければならず、腹部エコーやCTに比べると検査時間はやや長くなてしまいますし、閉所恐怖症の患者さんはまずは撮影が困難です。
胆石によってどんな症状が引き起こされる?
胆石がたまたま検査で見つかっても、症状を引き起こす可能性は年2~4%程度とされています。ただし、胆石が存在することによって引き起こされる症状および疾患はいくつかあり、代表的なものとして以下のものが挙げられます。
- 胆石発作
- 急性胆嚢炎
どちらも、胆石が胆嚢の出口(もしくは胆嚢管)を塞ぐことによって起こるのが一般的です。胆石が胆嚢管を通って総胆管に流れ込むと、胆石は総胆管結石と名前を変え、こちらも腹痛や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)などといった症状を引き起こしますが、今回は胆石が引き起こす症状について言及していますので割愛させていただきます。
現在は無症状であってもどのような症状が起きた時に受診すべきかは頭に入れておいた方が良いですので、それぞれの症状について具体的に説明していきます。
胆石発作の症状
胆石発作とは胆石を持った患者さんの中で起こりうる代表的な腹痛の発作です。
胆石が胆嚢の出口を塞ぐことで、胆嚢が収縮して中に蓄えられた消化酵素(胆汁)を分泌しようとしても出ることが出来ず、中の圧力が高まることで痛みをきたします。具体的には以下のような症状が起きます。
- みぞおちの痛み(心窩部痛)
- 右の肋骨下の痛み(右季肋部)
- 吐き気
- 嘔吐
これらの症状は特に食後しばらくして起こることが多いのですが、それは食べ物を消化しようと、胆嚢が収縮した際に、胆石が胆嚢の出口を塞いでしまうと逃げ場をなくした胆汁で胆嚢内の圧力が高まるからです。
そうなるとみぞおちから右の肋骨の下辺りに激しい痛みが生じ、時に吐き気や嘔吐も誘発されます。
ただし胆石発作は、後述する急性胆嚢炎と違い、激しい痛みは一時的で、しばらくすると急に症状が良くなります。これは一時的に胆嚢の出口を塞いでいた石が解除されて、高くなっていた胆嚢内の圧力が元に戻るからです。
再度胆石が胆嚢の出口を塞いで腹痛が起こり、そのまま後述する急性胆嚢炎に移行しないかどうか念のために入院で経過を見ることもあります。しかし、胆石発作を疑う症状はあったものの病院を受診した際に腹痛の症状は治まっている時は、検査だけ行い帰宅となります。
胆石発作が一度出現した患者さんは後に症状が再発したり、今後急性胆嚢炎を来すリスクが高いため待機的に胆嚢を胆石ごと切除する胆嚢摘出術を強く勧めます。
現在日本のほとんどの病院では、待機的な胆嚢摘出術は腹腔鏡手術手術で行われており、小さな傷で、短期間の入院(病院によっては日帰りでも手術可能)で治療を行うことができます。
急性胆嚢炎の症状
胆嚢の出口や胆嚢管を塞いだ石が動かず、胆嚢内部の胆汁が総胆管の方へ流れていけない状態が続くと急性胆嚢炎を来してしまいます。急性胆嚢炎になると以下のような症状がおきます。
- みぞおちの痛み(心窩部痛)
- 右の肋骨下の痛み(右季肋部痛)
- 発熱
- 吐き気
- 嘔吐
胆石発作と同様に、出口を塞がれると胆嚢が収縮しようにも胆汁の逃げ場がないため、胆嚢内部の圧力が高まり痛みをみぞおちから右の肋骨の下辺りに誘発します。
ただし胆石発作と違い、胆石が出口を塞いだままになりますので、痛みが持続し胆嚢内部の圧力が高い状態が続くのが特徴です。また急性胆嚢炎は時間の経過とともに菌が胆嚢内で繁殖しますので、熱も生じてきます。胆石発作同様、痛みに伴い吐き気や嘔吐を呈することもあります。
急性胆嚢炎について以下の記事で詳しく説明しています。
胆石の治療法は?
無症状の胆石に関しては、特に治療は行わず経過観察が推奨されています。とはいえ、今後症状をきたす可能性はありますし、患者さん自身が治療を希望された場合や、実際に腹痛などの症状をきたしている胆石には原則治療を推奨されています。実際に現場で行われている治療としては以下のものがあります。
- 薬物による結石の溶解治療
- 体外からの衝撃波による結石の破砕治療
- 手術による胆嚢の摘出(胆嚢摘出術)
薬物による治療方法として、胆石を溶解させる内服薬を6ヶ月以上内服する治療があります。しかし治療が成功するための胆石のサイズ(15mm以下)や胆石の成分(コレステロール性で石灰分をほとんど含まない)など適応がかなり限定されており、長期の内服治療のわりには治療の成功率は高くても60%ほどで、胆石の再発率も高いことを考えると、確実な治療とは言えません。
また、体の外から衝撃を与えて胆石を破砕する治療方法もありますが、こちらも胆石のサイズ(20mm以下)や個数(一つのみ)、成分(コレステロール性で石灰分をほとんど含まない)に制限があり、薬物による治療と同じく適応が限られています。治療の成功率は薬物治療のみよりもやや高いというデータも出ているものの、胆石の再発率が高いことも知られておりまし、病院によっては治療に用いる器械が置いていないこともあります。
最も確実な胆石の治療は、胆石と共に胆嚢を摘出する手術となります。胆嚢を切除してしまえば胆石の再発は絶対にありえませんし、実際に症状を呈する胆石の治療で最も推奨されている治療は胆嚢摘出術となっています。
胆嚢自身はあくまで胆汁を蓄えておく袋の役割があるのみですので、胆嚢を切除してしまってもほとんどの方で自覚症状が出ることはありませんし、手術自体も現在は傷の小さな腹腔鏡手術で行うことがほとんどです。腹腔鏡手術については下記の記事もご参照ください。
それでは薬物治療や衝撃波による破砕治療の意義はあるのだろうか?という疑問が出てきますが、手術をするためには全身麻酔に耐えうるだけの体の機能が必要ですので、とても手術に耐えられないような患者さんにとっては需要があります。
なお、胆石によって起こる急性胆嚢炎の治療に関しましてはやや複雑な治療戦略がありますので、次回の記事で詳細を説明させていただきます。
胆石についてのまとめ
今回、胆石の原因や胆石がきたす代表的な症状、そして治療法についてお話ししました。それでは、胆石について大切なポイントをまとめてみましょう。
- 胆石は摂取する食事やカロリーの過剰摂取と関係がある
- 胆石は胆石発作や胆嚢炎を起こすことがある
- 無症状の胆石は無治療で経過をみても良い
- 胆石の根本的な治療は胆嚢摘出術である
胆石の原因は、食べ物ととても関連があり、またそれ以外にも様々な要因で胆石ができることもわかりました。そして胆石が存在することによって、時に強い腹痛を伴う胆石発作や急性胆嚢炎を引き起こす可能性があります。
ただし胆石が存在するからといって必ず症状が出るわけではなく、無症状の胆石は無治療で経過の観察を行うことが可能です。
症状のある胆石に対しては、いくつかの治療方法の選択肢がありますが、最も推奨されておりあらゆるケースに対応できる治療は胆嚢摘出術になります。
胆石を持たれている方、思いがけず胆石を指摘された方に、今回の記事が参考になればと思います。