便秘は最も一般的な排便の異常の一つで、経験されたり、現在悩まされている方も沢山いらっしゃるかと思います。
便秘に対する薬剤は市販薬も含めて沢山販売されているので、病院に受診しなくてもある程度家庭でもコントロールされてる方も多いかと思いますし、食べ物を工夫することで便秘を予防されている方も多いかと思います。
ただし、便秘には様々な原因があり、その治療方法も様々なものが挙げられます。今回、代表的な便秘の原因と、その治療方法についてお話ししていきていと思います。
便秘の定義
便秘については日本の複数の学会が様々な定義を挙げています。それらをわかりやすく説明すると以下のようになります。
- 3日以上便が出ていない状態
- 毎日便が出ていても残便感(便が残っている感覚)がある状態
- 腸の内容物が遅れて滞り排便に困難を伴う状態
特に「3日以上便が出ていない状態」を便秘とする定義は、日数でわかりやく定義できるため私たち医療従事者の中でもよく用いられています。
最新の便秘の定義としては、2017年10月に日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会が作成した「慢性便秘症診療ガイドライン2017」には、「本来でなければいけない量の便がしっかりと快適に出なければ便秘である」と非常にシンプルに定義されています。
大腸の部位とその名称
人体の中で便を作る器官は大腸というのはご存知の方も多いと思います。そのため大腸と便秘は密接に関わっていますので、便秘の原因について説明する前に大腸の構造と働きについて説明したいと思います。
大腸は結腸と直腸で構成されており、結腸は場所によって盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸と名前がついています。個人差がありますが大腸は150cm程の長さがあり、食べ物の水分を吸収する働きがあり最終的に肛門から便として排出します。
横行結腸とS状結腸の長さは個人差が大きく、長いほど便秘になりやすいことが研究でも証明されています。
便秘の原因と治療について
一言で便秘と言っても、その原因は複数挙げられます。そしてどのような原因で便秘をきたしているかによって、その治療方法も異なってきます。
便秘の原因による分類
便秘の原因として従来より用いられている分類には以下のものが挙げられます。
- 便の移動が妨げられて起こる便秘(器質的便秘)
- 大腸の動きの異常で起こる便秘(機能性便秘)
- 全身の病気に伴う便秘(症候性便秘)
- 薬が原因となる便秘(薬剤性便秘)
なお、最新の便秘に対する治療指針である「慢性便秘症診療ガイドライン2017」には国際基準に合わせた分類が用いられてますが、より専門的になりますので上記の分類で説明を進めていきたいと思います。それではそれぞれについて説明していきます。
1. 器質的便秘
大腸の中を移動する便が物理的に妨げられて起こるタイプの便秘です。
例を出すと、大腸(主にS状結腸)お腹の手術の影響で大腸がお腹の壁や周りの組織とくっつく癒着を起こし狭くなっている状況や、大腸癌ができて大腸の内側が狭まってしまう状況などが挙げられます。
2. 機能性便秘
大腸の機能が落ちて起こるタイプの便秘です。
大腸の動きそのものが加齢などによって衰えてしまうことで起こる便秘や、便意があるのに排便しない習慣を繰り返すうちに便意を感じにくくなる便秘や、腸の動きを司る副交感神経が過剰に緊張状態隣、大腸の壁が緊張状態が続くこと(過敏性腸症候群)で起こる便秘がこの中に分類されます。
3. 症候性便秘
特定の神経疾患や精神疾患、内分泌疾患(ホルモンなどの分泌異常をきたす病気)の中には便秘をきたすものがあります。こういった全身の病気に伴って起こる便秘です。
4. 薬剤性便秘
癌などの痛みを取り除く緩和治療で用いる鎮痛剤や、精神疾患で使われる特定の薬剤の中には便秘を起こしやすくするものがあります。
便秘の治療
続いて便秘の治療法を挙げていきたいと思います。便秘の治療法は以下のものが挙げられます。
- 生活習慣の改善による治療
- 薬剤による治療
- 手術等による治療
それではそれぞれ具体的に説明していきます。
1. 生活習慣の改善による治療
生活習慣の改善は、多くのタイプの便秘の治療になります。具体的には以下のような生活習慣を改善することが勧められます。
- 食生活の改善
- 排便習慣の改善
- 運動習慣の改善
食生活の改善として、朝食を必ず取るようにすることや不足している食物繊維を十分にとることが挙げられます。食物繊維は、特に海藻類や豆類、大根などの根菜類に多く含まれています。
また、排便習慣の改善として便意をもよおしたら排便することが勧められますし、適度な運動を行う習慣も腸の動きを改善させ、便秘の治療となります。
ただし、物理的に便の移動が妨げられているタイプの便秘や、便意を感じにくくなるタイプの便秘、薬剤や全身の病気に伴う便秘などでは食物繊維の量を増やすと逆効果となる場合もありますので注意が必要です。
2. 薬剤による治療
便秘の治療方法として多くの方は薬剤、いわゆる下剤による治療を思い浮かべるかと思います。実際に私が受け持つ患者さんの中にも便秘に対して下剤を飲まれている方はかなりの頻度でいらっしゃいます。
ひとえに下剤といってもその働き方は便秘のタイプに合わせて複数あり、さらに似たような効果の下剤の中にも各製薬メーカーによる製品が多数あります。ここでは大まかに以下のように分類したいと思います。
- 便(もしくは薬自体)を膨張させ柔らかくするタイプの下剤(機械性下剤)
- 大腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を強めるタイプの下剤(大腸刺激性下剤)
- 直腸を刺激するタイプの下剤(直腸刺激性下剤)
- その他の下剤
それではそれぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 機械性下剤
便を膨張させたり、柔らかくすることで大腸を刺激し、便の移動を促すタイプの下剤になります。
様々な種類がありますが、その中でも酸化マグネシウムは非常によく用いられる薬剤です。大腸の動きが弱まるタイプもしくは大腸の壁が過度に緊張するタイプの便秘で一番目に選択される下剤です。
2. 大腸刺激性下剤
大腸の内側の粘膜を直接刺激することで、大腸の蠕動(ぜんどう)運動(便を運ぶための運動)を強める働きを持った下剤です。
大腸の動きが弱まるタイプの便秘で、上記の機械性下剤の効きが悪い際に二番目に選択される下剤です。しかしこのタイプの下剤の多くは、大腸の壁が緊張するタイプの便秘には用いることが出来ません。このタイプの下剤も非常によく用いられていますが、頻繁に使用すると依存しやすくなる習慣性のあるものも多いのが特徴です。
3. 直腸刺激性下剤
直腸が肛門から便を出そうとする反射の力(排便反射)を誘発させる下剤です。
一般的に知られているものでは浣腸が挙げられます。その他、直腸の中で炭酸ガスを発生させることで直腸を刺激し、排便反射を促す坐薬もよく用いられます。
4. その他の薬剤
上記の下剤以外にも、便秘に対して様々な薬剤が開発されています。
大腸を刺激するタイプの下剤と便を柔らかくする下剤が混ざり合った薬剤もあります。また、厳密には下剤ではありませんが、ビタミンB5の不足で腸の働きが鈍くなったタイプの便秘に使用されるビタミン剤、副交感神経の過剰な緊張で起こる過敏性腸症候群の治療で用いられる副交感神経遮断薬や抗不安薬、抗うつ薬なども便秘の治療薬として挙げられます。
以上のように非常に様々な種類の下剤があります。通常は比較的安全な下剤も飲み合わせや、使用前に適切な処置が必要な場合もありますので、自分の便秘にはどの薬剤が適切か必ず医師の判断を仰ぐようにしましょう。
3. 手術等による治療
主に物理的な原因で便秘をきたしている場合には手術を行うことがあります。例えば癌が原因で大腸が詰まってしまい、便秘をきたしている場合は手術で癌を含む大腸を切除します。
特殊なケースですが、大腸の働きが著しく衰え、多量の薬剤にも反応せず便を肛門まで輸送することが出来なくなる病気では、最終手段として結腸全摘術(直腸を除く全ての大腸を切除する手術)を行うこともあります。
また、特定の病気に伴って生じる症候性便秘では、基本的に原因となる病気の治療を行い便秘の改善を行います。しかし、糖尿病や神経の病気であるパーキンソン病など根本的な治療が困難な病気に伴う便秘には下剤で治療を行います。
薬剤性便秘では原因となる薬剤の調整を行うこともあります。ただし原因となる薬剤が患者さんにとって必要不可欠なことも多く、その際は下剤で治療を行います。
例えば、末期の癌で痛みを緩和するために麻薬(モルヒネなどの鎮痛剤)を使用している患者さんは便秘になりやすいですが、だからと言って鎮痛剤を中止するわけにもいきませんので、その場合は下剤を用いて便のコントロールを行います。
便秘の原因と治療についてのまとめ
今回、便秘の原因とその治療についてお話いたしました。それでは簡単にまとめてみましょう。
- 本来でなければいけない量の便がしっかりと快適に出なければ便秘である
- 便秘の原因は大きく4つのタイプが挙げられる
- 便秘には繊維質の多い食べ物を取ることが効果的
- 下剤には様々な種類があり使用には医師の診察が必要
便秘にはいくつかの定義がありますが、最新のガイドラインではよりシンプルに「本来でなければいけない量の便がしっかりと快適に出なければ便秘である」と定義されました。
また、便秘の原因としては、腸の働きが悪くなることで起こる以外にも大腸の中に腫瘍ができて通過しずらくなっている場合など、大きく分けて4つのタイプが挙げられ、原因に合わせた治療方法が必要です。
多くの便秘では、繊維質の多い食べ物を増やすことや、排便の習慣をつけること、適度な運動を行うこなど生活習慣を改善することも治療となり得ます。しかし、あまり効果のないタイプの便秘もありますので、あくまでも医師からのアドバイスも必要です。
便秘の治療薬となる下剤は様々なタイプのものがあり、便秘の原因に合わせた適切な使用が必要になります。
便秘は身近な病気である一方、原因によっては医師からの治療をしっかりと受けなければなりません。もし、今まで便秘ではなかったのに便の出が悪くなった、便が出そうなのになかなか出ない、何日も便が出てないのに便意をもよおさない、など変わったことがあれば躊躇せずに病院を受診しましょう。