前回の記事では、本邦の医学部がどのように分類されるのかを解説しました。
医学部を受験する際は、皆さんいろいろな理由があってその医学部を選択するものだと思われます。
しかし、意外と学歴(出身大学)とその後のキャリアの関係については、正しく知られていないことが多いです。
今回の記事では実際に医学部を卒業して働き始めた際に、学歴がキャリアを形成する上でどう影響を及ぼすかを検証していきたいと思います。
学歴の影響が大きなキャリアと小さなキャリア
先ず、結論のような形になってしまいますが、現在医師のキャリアは多様化しており、どの様な進路をとるかによって、学歴がおよぼす影響も変わってきます。
以前に比べるとキャリアが多様化した分、学歴が及ぼす影響は相対的に小さくなっているとも取れます。
医学部卒業後の進路については下記の記事にまとめておりますが、今回はその中から臨床医としてのキャリアのみに言及してみたいと思います。
それでは学歴の影響が大きいキャリア、小さいキャリアを順に説明していきましょう。
学歴の影響が大きいキャリア
基本的に大学医局に所属してキャリア形成を行う際には、大なり小なり学歴の影響を受けることが多いです。
とりわけ下記のような大学医局で出世していく上では、学歴の影響を大きく受けるように思えます。
- 旧帝大、旧6等の歴史が長い大学医局での出世を目指すキャリア
- 特定の大学から教授が輩出される新設医大学医局での出世を目指すキャリア
ではそれぞれのケースについて説明していきます。
旧帝大、旧6等の歴史が長い大学医局での出世を目指すキャリア
旧帝大、旧6の医局はどこも歴史が長くその地域において強い影響力を持ったり、トレーニングに有利は大きな関連病院を持っております。
そのため、周辺の他大学卒業生を中心として入局(医局に入ること)してきます。
もちろん、旧帝大、旧6の卒業生自身も多くが出身大学(自大学)の医局に属するため、教授や大学関連病院の要職は卒業生で占められることが多く、卒業生の方が優遇される傾向は少なからずあります。
他大学出身でそういった大学の医局に入った後、「自分は外様だから」などと自虐的に語る医師もいます。
ただし、最近は旧帝大の医局と言えど他大学出身の教授を登用するケースや、京都大学の医局など学閥意識が薄い医局も存在します。
旧帝大、旧6の医局も以前に比べると学歴の影響は全体的に薄まってきている印象です。
特定の大学から教授が輩出される新設医大学医局での出世を目指すキャリア
新設大学の医学部では、設立当初は卒業生がいなかったので、古い大学から教授以下主要な教員が送られてきていました。
その流れを引き継いで、伝統的に特定の大学から教授が選出され続けることがあります。
「〇〇大学(新設医大)は△△大学(旧帝大等)系列だ」、「〇〇大学(新設医大)は△△大学(旧帝大等)の植民地だ」などという話を聞くこともあります。
このような医局で出世を目指そうとすると、例えその大学出身であっても頂点(教授)まで上り詰めることが難しいことが多いです。
ただし、かつては「△△大学の植民地だ」と言われていた新設医大であっても、設立から時間が経ち、自大学の卒業生から教授を輩出している医局も現在は沢山あります。
また、その大学のある地で働きたいが、特に教授職や関連病院の部長職に興味がない場合や、後に当地での開業を考えてしばらく医局に席を置くような場合であればあまり学歴は気にしなくても良いでしょう。
学歴の影響が小さいキャリア
続いて学歴の影響が小さいキャリアについて考えてみましょう。
以下のようなキャリアは学歴の影響が小さいと言えます。
- 自大学出身者の割合が低い医局での出世を目指すキャリア
- 医局に属さないキャリア
ではそれぞれのケースについて説明していきます
自大学出身者の割合が低い医局での出世を目指すキャリア
大学医局によっては、自大学の卒業生の割合が極端に低く、様々な大学出身の医師で構成されているところもあります。
一例を出すと、東京女子医大の医局は卒業生よりはるかに多くの他大学出身の医師で構成されており、出世のチャンスは広く開かれている印象があります。
そういった大学でも、教授クラスとなると公募で外部から選出されることも多いですが、他大学から下手に旧帝大等の医局に入るよりかは居心地よくキャリアを積めるかもしれません。
ちなみに旧帝大であっても、眼科や耳鼻科、泌尿器科などマイナー科であれば他大学出身者の割合が高く、教授も卒業生ではないこともあります。
私自身は旧帝大の医学部で学んでおりましたが、臨床実習でマイナー科を回った際、様々な大学出身の先生たちが和気藹々と仕事をしていた印象がありました。
医局に属さないキャリア
医局に属さなければ、ほぼ自分自身のキャラクターと臨床能力で渡り歩いていくことになるので、学歴の影響は小さくなると考えられます。
主な医局に属さないキャリアとして、以下のものが挙げられます。
- 自分自身で就職先を探すキャリア
- 海外で臨床の腕を磨くキャリア
自分自身で就職先を探すキャリアでは、文字通り様々な手段で自分の能力に応じて採用してくれる病院を探して就職し、腕を磨いていきます。
2004年から始まった臨床研修制度以降、医局経由でなく医師を独自採用を行う病院が増え、初期研修(卒後1~2年目)~後期研修(卒後3~5年目)までは比較的採用の枠が広がりました。
そのため、それ以前に比べて医局に所属せずに専門医を取得(ただし科による)したりキャリア形成を順調に行うことが可能になりました。
この様なキャリアを選択した際は、よっぽど特定の学閥で占められている病院で勤務しない限りは学歴はあまり重要ではありません。
また、アメリカをはじめとした、海外の病院で臨床のキャリアを積む際には学歴が問題となることは殆どありません。
特にアメリカでは、試験のスコアや推薦状などが大きな効力を発揮するからです。
ただし、日本の大学出身者がディレクターをしている病院で勤務を検討する際は、コネクションとしての学歴が関係してくる可能性もあり得ます。
学歴とキャリアの関係のまとめ
以上、学歴の影響がキャリアにおよぼす影響について例を用いて解説いたしました。
それでは今回の記事を簡単にまとめてみましょう。
- 歴史の長い大学の医局ほど学歴の影響が大きくなる
- 医局に属さなければ学歴の影響は小さくなる
- 年々学歴がキャリアにおよぼす影響は小さくなってきている
基本的に医局に属するキャリアでは大なり小なり学歴の影響を受けます。
ただし、その影響は医局の母体となる大学の歴史が古いか否か、医局に属する医師にその大学の卒業生が多いか否かによって変わってきます。
あまり学歴の影響を受けたくなければ様々な大学出身者が在籍する医局や、教授が他大学から選出されている様な医局を狙うと良いでしょう。
なお、どの様なキャリアを選んだとしても、学歴が医局におよぼす影響は年々小さくなってきている印象があります。
医局に属さない医師の割合が増えてきたため、古い大学医局でも他大学出身者を大事にしていかないといけなくなったからではないかと考えられます。
また、どの様なキャリアを選んだとしても、学歴以上に医師としての技術やコミュニケーション能力の方がはるかに現場では重要であることを忘れない様にしましょう。