ここ最近、医師の勤務時間の長さに関するニュースが取り沙汰されています。特に厚生労働省が2019年の1月11日に示した「地域医療に従事する医師に関しては残業時間の上限は年1900~2000時間にする」という案は物議を醸しています。
過労死ラインに当たるとされている一般労働者の残業上限は年960時間ですので、いかに無茶苦茶な案なのかが分かりますが、背景には医師の残業時間の上限を増やさなければ回っていかない医療業界の現状があります。
私自身、医師の中でも忙しいとされる外科で働いておりますので、外科医の仕事内容からなぜ残業時間が増えるのか、そして医師の忙しさに対して患者さんはどのように感じているのか、今回の記事でお話ししていきたいと思います。
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なぜ医師は長時間労働になるのか?
医師が長時間労働に繋がる業務は様々なものが挙げられますが、私の勤務する外科では以下の要因が挙げられます。
- 手術や経過の説明
- 入院患者の回診
- 緊急疾患への対応
- 通常勤務に加えた当直業務
これらの業務は、勤務時間内・勤務時間外を問わずに突発的に生じる可能性があります。
例えば手術した患者さんに緊急手術が必要な合併症が生じた場合、夜間や休日であってもその患者さんの主治医が対応することが一般的です。
また、月曜日に手術予定の患者さんが土曜日や日曜日に入院となった際、手術の説明をするために病院に行かねばならないこともあります。
さらには、多くの病院で通常業務をこなした後の医師がそのまま夜間の救急外来を担当する当直業務に入り、そして病院で一夜を明かした後の翌日も普通に業務を行います。
このようにして、医師・外科医の拘束時間や病院滞在時間は伸びていくのです。
なお、外科医が忙しくなる理由については下記の記事で触れておりますのでご参照下さい。
医師の忙しさに対する患者さんの意見
上記のように休日・時間外問わず患者さんの対応をする医師ですが、そのような多忙な医師に対して患者さんはどう感じているのでしょうか?
私が出会った患者さんから感じた印象では、大きく分けると次の2つのパターンに分けることが出来ます。
- 医師だったら長時間働いて当たり前
- 医師は長時間働いて大変そう
もちろん患者さん自身は病気で入院していますので、自分の担当の医師がどのくらい働いているかなど考える余裕のない方も沢山いらっしゃいます。
あくまで何らかの反応を私たち医師に示された患者さん達の中での印象になります。
それではそれぞれのパターンについて、具体的な患者さんの声を聞いてみましょう。
長時間働いて当たり前だと感じる患者さん
私はそう多く出会った訳ではありませんが、医師は長時間働いて当たり前という考えを持った患者さんがいます。
以下にそういった患者さんからの声を挙げていきます。
- 「医者は親の死に目に会えなくても当たり前」
- 「休日・時間外問わず説明するのが当たり前」
- 「患者は苦しいんだから長時間働いて尽くすのは当たり前」
これらの発言には全て「医師は患者のために尽くすのが当たり前」という前提があるように感じます。もちろん医師が患者のために全力を尽くすのは当たり前ですが、医師とて自身の生活もありますので、常に対応できるとは限りません。
こういった患者さんの期待に応えようと無理をした結果、家庭崩壊を来したり心身を壊してしまったりする医師も少なからずいます。そして無理な労働によって集中力を欠いた状態で行う医療行為は、医療ミスの原因へと繋がります。
長時間働いて大変そうだと感じる患者さん
昼夜問わず診察に訪れる医師に対して同情し、長時間働いて大変だと感じてくれる患者さんもいます。
以下に私が耳にしたことがあるこういった患者さんからの声を挙げていきます。
- 「休日も出勤していつ休んでるんですか?」
- 「先生、昨夜救急外来で働いてませんでした?」
- 「医師をこんなに働かせるなんて酷い病院ですね」
このような声をかけてくれる患者さんは、比較的若い方の割合が多い印象があります。自分自身もバリバリ現役で働いているため、医師の勤務状況をリアルに自分と重ね合わせることができるからかもしれません。
また、ある程度高齢の患者さんの中には医師をいわゆる「お医者さま」として見ている方もいます。このような患者さんも医師の忙しさに対して労いの言葉をかけてくれることが多いです。
医師側としてはちょっとした労いの言葉をかけてもらうだけでも報われるような気がします。
医師の忙しさを患者さんはどう感じているのか?のまとめ
以上、医師の忙しさに対して患者さんはどのように感じているのか、実際の患者さんの声を2つのパターンに分けて挙げさせてもらいました。
これら2つの声を耳にした時の医師側の想いは以下のようになるのではないでしょうか。
- 長時間働いて当たり前と感じる患者さんからの声→頑張って働いているのに遣り甲斐をなくしてしまう
- 長時間働いて大変そうと感じる患者さんからの声→労いの言葉をかけてくれてモチベーションに繋がる
もちろん、何か原因があって医師を含め病院に不満がある際に、患者さんが医師に対してついきつい言葉をかけてしまうことも考えられます。あまり診察に来ない医師が主治医ですと、患者さんがついついもっと働くべきだ、と思ってしまうのは当然かもしれません。
いずれにせよ、長時間労働によって生じる様々な弊害の方が、現場に還元される利益より多いことは疑いようのない事実ですので、外科医を含めた医師の長時間労働が改善されるよう、下記の記事でも触れたように医師の働き方改革が良い方向に進むことを願ってやみません。