全身麻酔手術はどのようにして行われるのか? -手術室での流れを解説-

医療系ドラマなどではしばしば手術のシーンが出てきます。医療従事者で無ければ、自分が手術を受けない限りは手術室に入る機会はほとんどないと思いますが、実際の現場ではどのような手順を踏んで手術に臨むのでしょうか?

手術といっても局所麻酔で行う小さなものものから全身麻酔をかけて行う大きなものまで幅広く存在します。小手術は手術室まで行かず外来で完結してしまう場合もありますが、全身麻酔をかけるようなある程度大きな手術は手術室で行われます。

ここでは手術と聞いて多くの方が想像すると思われる全身麻酔手術(全麻手術)の流れについて、手術室に入ってから出るところまで説明していきます。

全身麻酔手術の流れ

ドラマなどでは手術中の描写が中心となりますが、実際の手術室では手術の前後にさまざまな行程があります。

ざっと全身麻酔手術の流れを順に書き出すと以下にのようになります。

  • 患者さんの入室
  • 麻酔の導入~体位の固定
  • 執刀医・助手の手洗い~患者さんの消毒
  • 手術開始~手術終了
  • 麻酔からの覚醒
  • 患者さんの退室

麻酔からの覚醒に関しては、手術内容や患者さんの状態によっては覚醒させずに退室となるなるケースもあります。

それではこれらの流れを一つ一つを具体的に説明して行きましょう。

患者さんの入室

余程の緊急手術でない限り、患者さんは一度病室に入院してから手術室に向かうことになります。病棟で着替えたり点滴を取ったりした後、元気な患者さんは徒歩で、そうでない場合は車椅子ないしはストレッチャーで手術室に向かいます。

手術室に着くと入口で本人確認(本名・生年月日・IDの確認等)を行い、いよいよ手術室に入って行きます。

麻酔の導入~体位の固定

患者さんが手術室に入った後は、いよいよ全身麻酔をかけていくわけですが、ここでの流れは以下のようになります。

  • 麻酔薬・鎮痛薬・筋弛緩薬を投与し自発呼吸を止める
  • 気管チューブを気管に挿入する
  • 患者さんの体位をとってベッドに固定する

通常全身麻酔の手術では患者さんの自発呼吸を止めて行うため、麻酔を導入した後、口から気管にチューブを挿入し人工呼吸器に接続します。後は手術に適した体位をとり、ベッドから落ちないように固定したら準備完了です。

執刀医・助手の手洗い

ドラマにもよく登場するシーンですが、手術室に入って来る際に外科医は手の甲を胸の前に突き出す独特のポーズを取ります。

実際よりもビシッと指先を上に向けて、少し誇張して表現されていることも多いですが、このポーズを取るのは、手術前に手指の手洗い(消毒)を行なった後に他のもの(もしくは自分自身の服など)に触れて不潔にならないようにするためです。

手術室に入室した後は滅菌ガウンと滅菌手袋を身につけて準備完了です。

一部の例外を除いて、基本的に全身麻酔手術は「清潔操作」で行われます。ここで、医療従事者の間で用いられる「清潔操作」と「不潔操作」について簡単に説明させて頂きます。

  • 清潔操作…滅菌した器具を滅菌手袋をはめて操作すること
  • 不潔操作…器具の滅菌に関わらず滅菌手袋を使用せず操作すること

さらに手術で切開する予定の部位を含む患者さんの皮膚は、手術開始前までにイソジン等で丹念に消毒します。

これは、皮膚には多数の常在菌が存在しているからです。因みに臓器が存在する体の中(体腔内ともいいます)は基本的には無菌です。

私が以前勤務していた病院では、執刀医・助手が手洗いを行なっている際に看護師さんが皮膚の消毒を行なっていました。

現在の病院では、執刀医が手洗いを行なっている間に助手が消毒を行います。

こうして手術に入る外科医、患者さんの手術を受ける部位が清潔な状態になったら、滅菌ドレープで患者さんの体を覆っていよいよ手術の開始です。

手術開始~終了

手術の開始から終了まではざっと以下のような流れになります。

  • 患者および術式の確認
  • 手術の進行
  • 手術機器やガーゼ等のカウント
  • 閉創(傷を閉じる)して手術の終了

患者さんの取り違えや手術の部位および術式に間違えがないか、チェックの意味で手術の開始直前に手術室のスタッフで確認を行います。それが終わるといよいよ執刀医により手術が開始されます。

手術も終盤となると、体内に留置しておいたガーゼや機器を全て外に出し、もともと準備していた数と相違がないかカウントを行います。

カウントした数に問題がなければ、傷を縫い閉じてようやく手術終了です。

麻酔からの覚醒

手術が終了した後は、手術室からの退室に向けて患者さんを麻酔から覚醒させます。

ここで、麻酔を覚醒させる前に、体内にガーゼなどの異物を置き忘れていないかないしは肺のコンディションに問題がないか等評価するためにレントゲンを撮ることがあります。もちろん、閉創前に手術機器やガーゼの数が足りているかしっかりカウントしてますので、滅多なことでは体内への置き忘れということはないのですが、仮にレントゲンに写っていた場合は麻酔を覚まさずもう一度傷を開いて体内を確認しに行きます。

因みに私は2000例近くの手術に立ち会ってますが、この様なシーンに出くわしたことは無く、それぐらい異物の置き忘れというのは頻度は低いものです。

ただし体内、特にお腹の中は死角が多く、小さなガーゼが行方不明になり手術中にレントゲンの撮影を行い場所を特定したことはあります。

手術後のレントゲンで異常がなければ麻酔を覚まし、患者さんの意識、自発的な呼吸を確認した後に人工呼吸器から離脱、気管チューブを抜去します。

因みに麻酔が覚めないか心配される患者さんもいらっしゃいますが、全身麻酔で使用される薬剤はすぐ効果が切れるものが使われています。

問題がなければ手術用のベッドから移動用のベッドに移したり、心電図モニターなどをポータブルなものに付け替えたりと退室の準備を行うことになります。

前述致しましたが、覚醒させずに人口呼吸器につないだまま退室の準備をすることもあります。例えば状態が安定しない程重症な場合や、極めて大きな手術(人工心肺を使った心臓手術など)で患者さんの状態が安定するまでに時間がかかる場合が該当します。

その際は、手術室を退室して集中治療室(ICU)に入室した後、しっかりと呼吸や血圧などのモニターを行った上で人工呼吸器を離脱することになります。

患者さんの退室

無事に麻酔から覚めた患者さんは、手術室からストレッチャー(ないしは病棟のベッド)で病室に戻って行きます。

原則的には予定された手術侵襲(手術そのものが患者さんに与えるダメージ)の大きさによって、手術室から集中治療室(ICU)ないしは一般病棟の重症室(HCU)、一般病棟の通常の病室に戻るか予め決められています。

しかし、手術中に大量に出血して容態が不安定になった、など手術の状況次第で退室先が一般病院からICUに急遽変わることもあり得ます。

心臓手術など大きな手術で麻酔から覚醒させず、人工呼吸器につないだ状態で退室する際は通常ICUに退出し、そのまま気管チューブをICUの人工呼吸器に接続したりや様々なモニターを装着します。

病室に戻ってひと段落したら手術室の外で待機していた患者さんの家族や関係者に病室に入って面会してもらいます。

私は現在、病室での面会時に手術の状況を説明していますが、手術の執刀が終わり麻酔から覚ましている間に手術室の外で待機している家族や関係者に状況を説明したり摘出した臓器があればそれを見せる病院も多いかと思います。

以上で全身麻酔手術室さの一連の流れは一旦終了です。後は術後の状況が安定するよう、医師や病棟のスタッフは術後管理に移ります。

全身麻酔手術の流れのまとめ

以上、全身麻酔手術の流れについて説明いたしました。

今回はどちらかと言うと非医療従事者向けの記事となりましたので、その視点から簡単に全身麻酔手術のポイントをまとめてみましょう。

  • 全身麻酔手術中は口から気管にチューブを挿入し人工呼吸器に繋ぐ
  • 外科医が両手の手の甲を前に突き出すポーズは手指を清潔な状態に保つため
  • 基本的に手術室で麻酔を醒まして手術室を出るが大手術や状態が悪い時はその限りではない

手術を受けたことがない方もイメージして頂けたでしょうか?もし手術を受けられる際はには是非参考にしていただけたらと思います。また、今回の記事で外科系ドラマを観る際により臨場感が増せば幸いです。

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