代表的な救急疾患から外科医の忙しさを考える

これまでの記事で、外科医の仕事内容や勤務する診療科によってその忙しさを検証してきました。なんとなく外科医の勤務内容は忙しい、というイメージができたかと思います。

今回の記事ではさらに踏み込んで、外科医が最も忙しくなる要因の一つである「救急対応」について検証していきたいと思います。

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救急対応は忙しい?

救急対応というと、救急車で来院した患者さんに対応するイメージがありますが、広義では以下のように分類できます。

  • 一般外来もしくは救急外来に来院した緊急を要する疾患のへ対応
  • 病院内で発症した緊急を要する疾患への対応

救急医療機関の認定を受けている病院は日中および時間外の救急患者の受け入れを行なっており、多くの外科医の勤務先もこのような病院に該当します。

腹痛で来院した患者さんに検査を行うと大腸に穴が空いており消化器外科で緊急手術が必要になったり、背部痛で来院した患者さんに検査を行うと大動脈解離をきたしており心臓外科で緊急手術が必要になったり、といった例が挙げられます。

また、緊急を要する疾患は外来にきた患者さんだけでなく、入院治療を行なっている患者さんにも起こり得ます。

例を挙げると、肺炎で内科で治療を受けていた患者さんに胆石ができ胆嚢炎で緊急手術となったり、腹部の手術を行なった患者さんの呂律が回りにくくなったので、頭を調べると脳梗塞になって脳外科で緊急の治療が必要になったり、など私が経験しただけでもかなり挙げられます。

こういった救急対応を行わなければいけない場面は勤務時間内および勤務時間外問わず訪れますので、救急対応が多い診療科、すなわち緊急疾患を多く扱う診療科で勤務する外科医はそれだけ忙しくなります。

続いて、外科系の診療科ごとにどのような緊急疾患があるのか具体的にみていきましょう。

診療科ごとの緊急疾患の例

前回の記事では外科医の勤務する診療科を多数挙げましたが、ここでは緊急疾患が多い科をピックアップします。

それぞれの診療科の代表的な緊急疾患は以下のようになります。

  • 一般外科/消化器外科の緊急疾患
    • 急性虫垂炎
    • 急性胆嚢炎
    • 消化管穿孔
    • 腸閉塞
    • 肝損傷
    • 脾損傷等
  • 呼吸器外科の緊急疾患
    • 気胸
    • 肺挫傷等
  • 心臓血管外科の緊急疾患
    • 心筋梗塞
    • 大動脈解離
    • 大動脈瘤破裂
    • 心破裂等
  • 脳神経外科の緊急疾患
    • 脳出血
    • 脳梗塞
    • 急性硬膜外血腫等
  • 整形外科の緊急疾患
    • 開放骨折
    • 骨盤骨折
    • 壊死性筋膜炎等
  • 複数の外科系診療科にまたがる緊急疾患
    • 外傷等

外科的な緊急疾患だからといって必ずしも緊急手術が必要というわけではないですが、手術適応や入院の適応を評価するのも外科医の仕事ですので、これらの疾患が疑われた患者さんが来院した場合は外科医自身の対応が必要となります。

それでは各診療科における緊急疾患についてについて、もう少し具体的に見て行きましょう。

一般外科/消化器外科の緊急疾患

私の専門分野でもあるこの分野では、多数存在する腹部臓器をメインで扱うため緊急疾患のバリエーションが多くなります。

頻度の多いものとしては、急性虫垂炎や急性胆嚢炎といった炎症疾患や、腸閉塞などが挙げられます。これらは直ちに緊急手術が必要になる場合も多いですが、抗生剤治療や絶飲食による保存的加療で治療を行うことが可能な場合もあるのが特徴です。

緊急手術がほぼ必須となるのが、大腸に穴が開く大腸穿孔に代表される消化管穿孔や、交通事故などによって臓器損傷を来たし、出血のコントロールが困難な場合などが挙げられます。

また、胃や大腸の手術後に繋ぎ合わせた腸管が裂けてしまう縫合不全を来した場合も、すぐに対応しなければ敗血症性ショックになってしまうことがあるので緊急手術や緊急処置が必要となります。

また、緊急手術を要さず内科的に保存的加療が可能な緊急疾患(一部の腸閉塞や胆嚢炎など)を、一般外科/消化器外科医が対応するのか消化器内科が対応するのかは明確に分かれていない病院も多いです。

扱う疾患の数が多いだけに緊急疾患の数も多く、救急対応に追われる頻度も多くなるのが一般外科/消化器外科の特徴です。

呼吸器外科の緊急疾患

呼吸器外科の扱う肺は生命を維持する呼吸に必要な臓器であるため、緊急疾患の緊急性もより高くなります。

頻度が多いものとしては肺に穴が開く気胸が挙げられますが、漏れ出た空気が胸腔内に貯留して行き心臓や大血管などを圧迫する緊張性気胸は直ちに処置を行なわなければ生命が危険にさらされます。

ただし、緊張性気胸を始めとした呼吸器外科領域の緊急疾患は、あまりにも緊急性が高いために呼吸器外科医を呼ぶ前に救急医や最初に対応した医師がすぐさま処置を行うことが多いです。

一般外科/消化器外科の医師よりは救急対応の頻度は少ないですが、緊急性のより高い疾患を扱うのが呼吸器外科の特徴です。

心臓血管外科の緊急疾患

心臓血管外科は緊急手術の頻度が最も高い科の一つと言えます。心臓血管外科の扱う心臓は生命に直結していおり、対応の遅れはそのまま生命の危険に繋がりますので緊急性も非常に高くなります。

不安定狭心症や心筋梗塞に対する緊急バイパス術や、大動脈解離や大動脈破裂に対する人工血管置換術など、発症から手術までの時間が遅れるとそれだけ手術の成績も悪くなってしまいます。

また、心臓外科の術後は再出血などで緊急で再手術になる場合もありえるので、手術の後も気が抜けません。

なお、心筋梗塞や大動脈解離の全てが緊急手術対象という訳ではなく、カテーテル治療など内科的治療が可能なものは循環器内科が一手に引き受けますので、同じ心臓の緊急疾患でも外科と内科で棲み分けがきっちりされている領域といえます。

心臓の緊急手術自体、人工心肺を回して行う大掛かりなものが多く、一般外科/消化器外科の緊急手術に比べて手術時間が長くなるのが心臓血管外科の特徴です。

脳神経外科の緊急疾患

脳神経外科も心臓血管外科と並び、緊急手術の頻度が最も高い科の一です。

脳出血や脳梗塞といったいわゆる脳卒中、さらには外傷による頭蓋内の出血などの緊急疾患に対応します。

同じ病院に神経内科の医師が充実していれば、緊急手術対象とならない緊急疾患(例えば降圧剤のみで保存的に治療を行う脳出血など)は神経内科医師が対応しますが、そうでない場合は頭に関する緊急症例は脳神経外科医が全て対応しなければなりません。

そういった意味で、心臓血管外科に比べて外科と内科の棲み分けがはっきりしていない領域と言えます。

脳の緊急手術も頭を開く比較的大きな手術が多いですが、近年は循環器内科におけるカテーテル治療のように、血管内治療で患者さんの頭を開くことなく緊急で治療をする技術が進んでいるのも脳神経外科の特徴です。

整形外科の緊急疾患

整形外科では全身に存在する骨に関する疾患の治療を行うため、緊急疾患のバリエーションも多くなります。

骨に関する緊急疾患といえばもちろん骨折ということにになりますが、骨折する部位や骨折の形態によってその緊急性は大きく変わってきます。

通常、手指や腕の骨折ですぐさま緊急手術になるということは殆どありませんが、これが皮膚を破って骨が露出するような形となる開放骨折であれば話は別です。創部や骨が汚染される可能性が非常に高く、最悪なケースでは骨折部位の切断を余儀なくされる場合があります。

また、骨盤骨折では骨折部位からの大量の出血でショック状態となることもあるため、緊急での固定術が必要となるケースもあります。

救急疾患としての骨折は非常に多く、外傷患者が沢山運ばれてくる病院では特に忙しくなるのが整形外科の特徴です。

複数の外科系診療科にまたがる緊急疾患

交通事故や転落などといった全身に大きなダメージを受ける、いわゆる高エネルギー外傷では、頭の先から足の先まで全身にダメージを受けます。

例を出すと、交通事故で搬送された患者さんの頭蓋内に出血があり、さらに内臓も損傷し、骨盤も骨折している。などといったような状況です。

このような例では、どの部位の内部損傷が最も生命に影響を及ぼすか判断し、該当する各科が合同で治療に当たります。

外傷を一手に引き受ける高度救命センターなどでは、消化器外科、脳外科、整形外科といった専門がバックグラウンドにある救命救急科の医師が治療に当たりますが、そうでない病院では各外科系医師が救急対応を行うのが通常です。

ただしこのような高エネルギー外傷は、充分に診療科が揃った3次救急病院などにしか救急搬送されないのが特徴です。

診療科ごとの緊急疾患のまとめ

代表的な外科系診療科の外科医が救急対応すべき緊急疾患について検証いたしました。それでは各診療科ごとの救急対応の忙しさをまとめてみましょう。

  • 一般外科/消化器外科→緊急疾患のバリエーションが多く救急対応する機会が多い
  • 呼吸器外科→他の外科系診療科に比べると救急対応の頻度は少ないが致死的な緊急疾患を扱う機会が多い
  • 心臓血管外科→緊急手術の頻度が高く長時間に及ぶものが多い
  • 脳神経外科→緊急手術の頻度が高く病院によっては保存的治療が可能な緊急疾患も一手に引き受けなければいけない
  • 整形外科→緊急疾患のバリエーションが多く救急で外傷を多く受け入れる病院では特に忙しくなる

以上のように外科系診療科の多くが緊急疾患に対して救急対応を行う必要があることがわかります。

そして救急対応は基本的に、平日日中であれば診療や検査そして手術の合間に、夜間や休日で自宅にいれば病院に向かって対応しなければいけませんので、外科医が忙しくなる大きな要因といえます。

もちろん365日24時間、一人の外科医が救急対応を行うわけではなく、日によって救急対応する当番の外科医が決まっているのが通常です。

このように日々忙しい外科医ですが、その分達成感ややり甲斐もあることも最後に付け加えさせて頂きたいと思います。

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