勤務医の進路を選択するとどのような働き方ができるのか?

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前回の記事では医学部卒業後の進路選択として、多数の道がかれていることを取り上げました。

医学部卒業後ほとんどの医学生さんは、ごく少数の例外を除いて医師免許を取得し、医療業界に携わることになると思います。 そこで今回、医学部...

今回はそれぞれの進路についてより深く掘り下げて行きたいと思います。

まずは臨床医を選択した場合についてですが、勤務形態は大きく分けて以下のように分類できました。

  • 勤務医
  • 開業医

臨床医の大多数を占めるのは勤務医ですが、患者目線で関わることが多いのは開業医ですね。今回、臨床医として勤務医を目指す場合にどのような働き方ができるのか検証していきましょう。

勤務医になる場合

臨床を行う勤務医には、次のような医師が存在します。

  • 保険診療に従事する常勤医師
  • 自由診療に従事する常勤医師
  • フリーター医師

常勤医師として働きながら週末はバイトする等の働き方もありますが、ここでは単純にそれぞれの医師の特徴と、それぞれのキャリアを選ぶ上でのメリット・デメリットを検証していきましょう。

保険診療に従事する常勤医師の特徴

保険診療とは、その名の通り国民健康保険等の公的医療保険制度が適用される診療のことになります。

日本は国民皆保険制度が施行されていますので、なんらかの疾病で病院にかかっても患者側の負担は少なくて済んでいますね。

後述する自由診療を行なっているクリニックなどを除くと、日本の病院のほとんどが保険診療を扱うことになりますので、一般的な病院で勤務する常勤医師のほとんどが保険医療に従事することになります。

保険診療に従事する常勤医師は、主に次のような雇用形態を取って病院で勤務します。

  • 大学医局に所属し勤務
  • 大学医局に所属せず病院と直接契約して勤務

この2パターンは、キャリアを形成する上でも重要となってきますので、さらに細かく検証していきましょう。

大学医局に所属し勤務する場合

大学病院には、その科の医局(第◯外科、第◯内科など)に所属(入局)している医師が勤務していますが、その都市にある公立病院やある程度規模の大きな病院、例えば◯◯県立中央病院、◯◯市民病院なども大学医局に所属している医師が派遣され、勤務していることが多いです。

  • メリット
    • 臨床だけでなく学術的な面も含めバランスの良いキャリアを身に付けることができる
    • 基本的に自分で勤務先を探す必要がない
    • 勤務先以外に相談できる先輩や頼れる後輩を多数持つことが出来る
  • デメリット
    • 医局の派遣先が必ずしも良い病院とは限らない
    • 医局の人事で転勤を繰り返すことになる可能性がある
    • 異動の際など大学医局の教授や上司にも伺いをたてる必要がある

大学医局に所属することで上記のようなメリットを得ることができます。また、地域の有力病院は医局経由でしか就職するのが難しいことも多く、そういった病院での勤務を希望する際は大学医局に所属し派遣してもらうと良いでしょう。

また、論文を多数書いたり研究留学を行いアカデミックキャリアを積み上げることが出来るのも大学医局に属することの魅力と言えます。

後に有力な大学の存在する地域で開業等を検討する際も、コネクション作りとしてして大学医局に所属ししばらく勤務するというのも一つでしょう。

ただし、デメリットにもあるように医局の人事は流動的で、気に入った病院に長く勤めることが出来るとは限らず、人事権を握った教授などの一声ですぐ異動などということも起こり得るということを頭に入れておきましょう。

大学医局に所属せず病院と直接契約する場合

公立病院などに対して民間の医療法人が運営する病院は、病院自体が直接医師を雇用する形態をとることが多いです。(もちろん国立がんセンターなど、公的な病院であっても広く医師を募集していることも例外としてあります。)

15年程前までは、医学部を卒業するとそのまま母校もしくは他大学の医局に入局することが多かったので、大学医局に所属せず直接病院と契約して勤務する医師は少数派だったと思われます。

しかし、研修制度が変わり大学医局に所属せずに自由に病院を選んで勤務を開始することができるようになった影響や、民間の斡旋業者が増えたことなどによって直接病院と契約して勤務する医師も増えてきたのではないでしょうか。

  • メリット
    • 一度雇用されれば原則的に転勤等はない(全国チェーンの民間病院を除く)
    • 原則的に好きな期間勤務することができる
    • 大学教授の顔色を伺ったりせず大きなしがらみなく退職することができる
  • デメリット
    • アカデミックキャリアを形成しにくい場合がある
    • 違う病院に異動したくなった際は自力で勤務先を探す必要がある
    • 民間病院の勤務医では学会等での発言力を獲得しにくい

一般的に大学医局経由で勤務する際に比べ、自分で病院を選ぶことができ、かつ気に入れば好きな期間同じ病院で勤務することができるので自由度は非常に高いです。

私自身は現時点で、大学医局には所属せず外科の常勤医師として勤務しております。手術の経験とういう面では一般的に大学医局に入局し、下積みを行なってきた同年代の外科の医師よりはるかに上回ることができていると実感しています。

ただし病院の選択を誤ると、労働力として使われるだけになり手術経験・学術面の双方で大きく遅れをとることにもなりかねません。また、科によっては大学に入局しなければ専門医などの資格を取得することが困難な場合もあるため、このような勤務形態をとる際は事前の入念なリサーチが必須です。

自由診療に従事する勤務医の特徴

公的医療保険が適応されず、医療行為を提供する側が自由に価格を設定することができ、医療行為を受ける側は全額その費用を負担する診療が自由診療(自費診療)であり、主に以下のような分野が挙げられます。

  • 美容外科手術
  • 美容皮膚科の治療
  • 近視に対するレーシック手術
  • 自然分娩での出産
  • 不妊治療
  • 薄毛治療
  • 免疫療法等

原則的に「病気でないもの」に対する医療が自由診療になりますが、現時点では癌に対する免疫療法も原則保険診療と認められていないため自由診療となります。

特徴として自由診療を提供する医療機関の収益率は高く、自由診療に従事する医師の給与は高額となる傾向にあります。実際に自由診療を行なっているクリニックの求人では、年棒2000万円以上というのが多数あります。

  • メリット
    • 保険診療に従事する勤務医では得られない高額な給与
    • インセンティブが付く場合も多く、モチベーションに繋がる
    • 基本的に当直や受け持ち患者がおらず心理的拘束が小さい(産科系を除く)
  • デメリット
    • 美容外科医などに対する同業者・世間の印象はまだ決して良いものとは言えない
    • 全国展開のクリニックなどでは転勤が起こりうる
    • 経営母体が怪しいクリニックも存在しうる

自由診療に従事する勤務医を選ぶ医師に対しては、やはりその高額な給与からお金目当てという視線を浴びせる人が多いかもしれません。しかし、保険診療に比べて実力社会である側面が強く、実力のない医師が淘汰がされうるという面からは、個人的には健全な側面もあると感じております。

ただし、病気に対する治療であれば合併症等起きても病気を治すという大義名分があるために許容されることであっても、自由診療の領域で扱うものが原則病気でないものに対してなので、患者の期待と違った結果になること(美容外科手術で自分の期待していた結果と違う顔貌になった、レーシック手術で視力は良くなったのに光を眩しく感じるようになった等)で保険診療以上にトラブルがとりだたされるのも一つの問題点です。

メリット・デメリットをしっかりと考慮し、考えうるリスクを許容できてから選択すべき勤務形態だと思います。

フリーター医師の特徴

常勤先を持たず、非常勤のアルバイトのみで収入を得ている医師をフリーター医師、フリーター医と呼びます。このような医師のアルバイト先には以下のようなものが挙げられます。

  • 専門性を要するアルバイト
    • 循環器・糖尿病等に特化した専門外来を行うアルバイト
    • フリーの麻酔科医師
    • フリーの内視鏡専門医師等
  • 専門性の必要ないアルバイト
    • 企業などで検診(主に問診・聴診など)を行うアルバイト
    • 病院で夜間ないしは休日の日中などに当直や日直を行うバイト等

給与を比較すると、もちろん 専門性を要するアルバイト>専門性の必要ないアルバイト となりますので、フリーター医師として高給を得たければ先ずは何らかの専門医を目指すのを優先した方が良いかも知れません。

専門性の必要ないバイトの代表格が検診バイトや当直バイトになりますが、専門性がないからといって最低限の診断能力やコミュニケーション能力はもちろん必要です。

  • メリット
    • 自分の好きな時間に好きなだけ働くことができる
    • 常勤医師より総所得が高くなることもある
    • 専門性の高いアルバイトでは自分の得意分野のみで活躍できる
  • デメリット
    • 医師としてのキャリア形成が停滞することが多い
    • 市場の状況により賃金の下落が起こりうる
    • 非常勤の求人は地方では少ないことが多い

常勤医師のように入院患者に縛られたりすることなく、自由に働くことのできるフリーター医師は、自由に生きたい方にとっては魅力が大きいかもしれません。

また、出産・子育てなどを機に常勤でバリバリ働くよりはペースを落として勤務したい女性医師にも向いている働き方かもしれません。

なお、フリーランスの麻酔科医師のように専門性があり、フルに仕事を入れれば常勤医師より高収入を得ることも可能です。

ただし、専門を生かすためにはもちろんそれまでの下積みが必要となりますので、最初から楽したいという気持ちで参入しても淘汰される可能性が高いです。

実際に私が勤務する病院でも、麻酔を覚ます際にトラブルを起こし2度目でお払い箱になったフリーの麻酔科医師もいます。専門性の必要なバイトで生計を立てるフリーター医師を目指す際は自分の商品価値を高めてから参入するべきでしょう。

また、専門性の必要ないバイトは、今後の病院の統廃合や参入医師の過多によるバイト代のダンピング等によって旨味が減ってしまう可能性も考えなければなりません。

勤務医になる場合のまとめ

医学部卒業後は多くが臨床医としてまずは勤務医のキャリアを積むことになると思いますが、タイプ別におすすめの進路選択をまとめてみましょう。

  • 臨床もアカデミックキャリアもバランス良く経験したいタイプ→保険診療に従事する常勤医(大学医局に所属し勤務)
  • 自分で勤務先を選び臨床をバリバリ経験したいタイプ→保険診療に従事する常勤医(大学医局に所属せず病院と直接契約)
  • 人の目は気にせず実力で大きく稼ぎたいタイプ→自由診療に従事する常勤医
  • 束縛されずに自由に自分のペースで働きたいタイプ→フリーター医師

もちろん一つの勤務形態を一生行うのでなく、途中から違った道に進むことも可能ですので、自分のライフスタイルに合った働き方を人生の節目節目で検討して行きましょう。

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