外科医の抱える訴訟リスクとは?その解決策を考える

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以前記事で説明したように外科医志望者は1990年代以降減少してきています。

先日、東京医科大学(東京医大)が女子の点数を一律に減点する不正入試を行い、女子の入学者の割合が増えないように調整していることが問題になり...

理由は様々挙げられるかと思いますが、その一つには訴訟リスクの高さがあるのではないでしょうか?

手術を行う外科系の科はそれ以外の科に比べて特に訴訟リスクが高いとされています。

今回の記事では、外科医が潜在的に抱える訴訟リスクにどのようなものがあるのか、各種挙げ説明していきたいと思います。

訴訟が起こりうる状況

外科はいくら訴訟リスクが高いと言っても、訴訟されたくて医療行為を行う外科医はいないはずです。

しかし、いくら気を付けても外科医を続ければ続けるほど、訴訟につながる事態に遭遇する可能性は高くなります。

そのような訴訟につながる事態として以下のような状況が挙げられます。

  • 手術に伴う偶発症・合併症が起きた時
  • 手術後に急変をきたした時
  • 手術後に癌の転移や再発した時

それぞれの場面でどう訴訟に繋がるのか、一つずつ解説していきましょう。

手術に伴う偶発症・合併症が起きた時

手術を行っていく上で避けて通れないのが手術に伴う偶発症や合併症です。

ところで偶発症と合併症とはどう違うのか改めて解説します。

  • 偶発症とは…手術や検査の際に偶然起こった病気
  • 合併症とは…手術や検査などが原因となって起こる病気

どちらも似たような用語で、時に同じようなニュアンスで使われることもあります。

偶発症の方は手術や検査と、その際に起こった病気の間に因果関係がない、もしくは不明で、一方合併症の方は因果関係が認められる、ということになります。

いずれの場合も、故意でなくても患者さんや患者さんの家族が望んでいないことが起こるわけですので、重篤な後遺症が残ったり、それが原因で亡くなった場合など、訴訟に繋がることがあります。

それでは実際の偶発症・合併症の例をみてみましょう。

手術に伴う偶発症の例

心臓病の既往がある患者さんが、お腹の緊急手術が必要な状況で救急搬送されました。

手術にはリスクを伴いますが、緊急手術をしなければ危険な状態ですので手術に臨みました。

手術は順調に進んでいましたが、手術中に心筋梗塞が起きて患者さんは亡くなってしまいました。

この場合はお腹の手術を行っていたのに、関係のない心臓の病気が起こってしまったので偶発症に当たります。

手術に伴う合併症の例

大腸癌の手術で癌のある部位を切除し、大腸を繋いで手術は問題なく終わりました。

手術後3日目に大腸を繋いだ部分が裂けてお腹の中に便が漏れ出てしまい、ショック状態になってしまいました。

この場合は手術で大腸を繋いだところが裂けてしまったので、明らかに手術との因果関係があり合併症に当たります。

手術後に急変をきたした時

手術に伴う合併症や偶発症と若干被る点もありますが、稀に手術後の経過が良好だった患者さんの呼吸が止まったり心臓が止まったりする、いわゆる「急変」を来たすことがあります。

患者さんの高齢化の影響で様々な基礎疾患(いわゆる持病)を持って手術に臨まれることも多く、手術による体の負担など様々な要因が重なり合って、不幸にも急変を来たすことがあるのです。

いくら患者さん本人とは信頼関係が構築されていても、急変の際は本人とコミュニケーションを取ることは困難ですので家族達とのやり取りを行うことになります。

日頃、患者さん本人だけでなく家族ともコミュニケーションをとっていないと「なぜ急変したんだ」と思わぬトラブルが起きてしまう可能性があり、結果が芳しくないと訴訟に繋がることも考えられます。

手術後に癌の転移や再発した時

癌の手術の後は全国ほとんどの病院が、標準的な治療方針をまとめたガイドラインに沿っ癌の転移や再発などの出現がないか、患者さんに外来に来てもらい定期的な検査と診察を行います。

ガイドラインに沿って定期的に検査をしていればトラブルになることはあるまいと思いますが、そこに落とし穴があります。

癌の小さな転移が検査で出現していたのに、それを見落としてしまっていて、いよいよ大きく成長した時に気付き治療が遅れてしまうと、問題になり場合によっては訴訟につながってしまう可能性があります。

採血やCTなどの検査をいくら行っても、それらは行いっぱなしでなく一つ一つしっかり確認して評価する必要があります。

どんなに注意深くCTなどの画像を見ても、医師も人間ですし、小さな転移や再発は早い段階では分かりにくい場合もあります。

また、元々外科で手術をした癌と関係ない病気がCTで映ることもあります。このような時は、その病気を疑っていない状態で検査に目を通すので特に注意が必要です。

私自身も早期の胃癌に対して手術した患者さんや肝臓の良性の病気に対して手術した患者さんに、手術後の検査でたまたま違う病気が見つかり再度手術を行なったことがあります。

気付かずにしばらく放置してしまっていたら、と思うとゾッとします。

外科医の抱える訴訟リスクのまとめ

今回の記事はネガティブなテーマになってしまいましたが、外科医の仕事を行う上で遭遇しうる、訴訟につながりかねないリスクについてお話ししました。

改めて、訴訟につながりうる状況とその解決策に関してまとめてみます。

  • 手術に伴う偶発症・合併症が起きた時→手術前から患者さんと信頼関係を構築し手術のリスクも理解してもらっておく
  • 手術後に急変をきたした時→手術前後に患者さん本人のみならず家族とも信頼関係を構築しておく
  • 手術後に癌の転移や再発した時→検査日と結果説明の日をずらししっかりと検査結果を検証する

解決策も簡単に書きましたが、もちろん100%トラブルを避けることができるとは限りません。

しかし医療訴訟の多くは患者さんや家族とのコミュニケーションエラーから起こるものも多く、信頼関係の構築は訴訟リスクを下げるためには必須と言っても過言ではありません。

もちろん訴訟を避けるために医療行為を行うわけではありませんし、外科の仕事はやりがいが大きいのも確かです。

外科医を目指すのであれば日頃からしっかりと研鑽を積み、患者さんに信頼してもらえるよう診療を行いましょう。

それが結果的に訴訟リスクを下げることになるはずです。

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