人前での怒鳴るキレるはパワハラにあたる?病院での事例からその定義を検討

近年、スポーツの指導現場や職場でのパワーハラスメント(パワハラ)が、社会問題としてよく取り上げられるようになりました。

最近ですと、体操の速見佑斗コーチがパワハラ問題で日本体操協会から抹消処分という思い処分を受けたニュースが物議を醸しています。

パワハラ問題は医療業界、とりわけ病院内でも例外ではなく、時として指導者が人前で怒鳴る場面やキレる場面を見るとこれはパワハラにあたるのではないか?と思うことがあります。

ただし、スポーツと同じく技術の指導を行うことの多い医療の現場において、パワハラと指導の線引きはどう行うのか難しい場面もあります。

今回の記事では私の働く医療業界、とりわけ病院における事例を出してパワハラの定義や指導との違いについて考えていきます。

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パワハラの定義

職場内におけるパワハラについて、厚生労働省のホームページで以下のように定義しています。

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

引用: 厚生労働省ホームページ 「職場のパワーハラスメントについて」

これによると、職場内で立場が優位な者が、業務上必要な指示や指導などの範囲を越えて、被害者に苦痛を与えるもしくは職場環境を悪化させる行為が「パワハラ」に該当するとされています。

どこまでを業務上必要な指導と捉えるかなど難しい部分もありますが、指導であっても精神的および肉体的な苦痛を伴えばパワハラに抵触するする可能性が非常に高いと考えられるでしょう。

続いて具体的なパワハラの種類について見て行きましょう。

パワハラの種類について

厚生労働省のホームページでは、パワハラの種類を以下の6つに分類しています。

身体的な攻撃

文字通り暴力を振るって直接身体に直接危害を加えることが該当します。また、直接的な暴力でなく、机などを殴る、蹴るなどの行為もこれに該当します。

精神的な攻撃

人前で怒鳴る、キレる、暴言を吐く、侮辱するなど、精神に苦痛を与える行為がこれに該当します。

人間関係からの切り離し

無視したり、仲間外れにするなど、学生時代のいじめに近い行為がこれに該当します。

過大な要求

業務を行う上で不要なことや不可能なことを強制することや、仕事を妨害することがこれに該当します。

過小な要求

本人の能力や経験とかけ離れた単純な仕事や簡単な仕事をさせたり、仕事そのものを与えないことがこれに該当します。

個の侵害

必要以上にプライベートなことに立ち入ってくることがこれに該当します。

以上のようにパワハラにも直接暴力を振るったり怒鳴りつけたりするだけでなく、様々な種類があることがわかります。因みに過去3年間に受けたパワハラの中で、「精神的な攻撃」が特に高いというデータもありますので以下に提示します。

引用:あかるい職場応援団 「データでみるパワハラ」

定義と6つの種類を組み合わせて見てみると、職場で受けていた行為が実はパワハラに該当する、ということもあり得ると思います。

続いて、実際の医療現場における実例を挙げて検証していきましょう。

病院内で見られるパワハラの例

医療現場は比較的体育会系な側面もあり、指導とパワハラの線引きが難しい場面にたびたび遭遇します。また、病院内には様々な職種の人が勤務しているため、あらゆる職種間や職種内でパワハラが起こりやすいのだと考えられます。

私が医学部生時代に病院で実習を始めた時から、外科医として病院で働く今日に至るまでに至るまで、パワハラに該当する様々な場面に遭遇しました。特に以下のようなパターンが目につきやすいです。

  • 先輩医師から後輩医師に対するパワハラ
  • 先輩看護師から後輩看護師に対するパワハラ
  • 医師から他職種(看護師・事務等)に対するパワハラ

それではそれぞれのパターンでの事例を挙げ、それぞれの状況での問題点も併せて挙げて行きます。

先輩医師から後輩医師に対するパワハラ

指導医(研修医や若手の医師を育成する立場の医師)から研修医に対してなど、キャリアのより長い先輩医師が後輩医師に対してとる行為がパワハラとなるケースがあります。それでは私が実際に見聞きした事例を挙げていきましょう。

  1. カンファレンス(会議)中に教授が部下を罵倒した上で殴った
  2. 手術中執刀医の操作がうまくいかなかった際に助手のせいにして暴言を浴びせた
  3. 気に入らない部下を長いこと手術メンバーから外した

1のケースではパワハラの種類における「身体的な攻撃」に、2のケースでは「精神的な攻撃」に、3のケースでは「過小な要求」に該当すると考えられます。

1のケースのように、直接暴力を振るうケースは最近では滅多に目の当たりにしませんが、書類を投げつける、机を殴るなどは私も何度か見たことがあり、これらも上述のパワハラの種類における「身体的な攻撃」に該当します。当然ですが、口頭での注意で済むことを暴力で表現するのは指導の範囲を超えています。

2のケースですが、手術中に暴言を吐く外科医師一定割合でいます。必ずしも手術中に余裕を無くして助手に当たる外科医だけでなく、意外にも職人気質の凄腕外科医の中にもこのようなタイプはいます。そのため、執刀医から技術を学びに来ている外科医が助手をするケースも多く、定義上ではパワハラであっても暴言を浴びせられた側は指導の一環として受け止め問題が表面化するのは意外と少ないのかと思います。

3のケースでは、もちろん技量が足りない外科医を手術から外すのは当然とも言えますが、十分な経験があるのに私的な好き嫌いで部下に手術をさせないというのは当然パワハラになります。

先輩医師と後輩医師の間では、どうしても指導が行き過ぎて罵倒したりするケースが多くなると考えられます。さらに教授や部長など、自分の仕事や内容をコントロールできる立場にある上司からのパワハラに対しては一人で抱え込んでしまいがちなのが問題と言えます。

先輩看護師から後輩看護師に対するパワハラ

伝統的に看護師の世界では体育会系の指導を行うことも多く、指導とパワハラの境界が難しいケースもあります。しかし、実際に見聞きした以下のような事例は明らかにパワハラにあたるものです。

  1. 一人の看護師の業務上の至らない点を同じ部署の看護師達が皆の前で本人に対して挙げていく場を設けた
  2. 気に入らない新人の看護師が先輩看護師に業務上わからないことを聞いてきても無視し続けた
  3. 後輩看護師に対して執拗に休日の過ごし方や結婚相手に関する情報などを聞き出そうとした

1のケースではパワハラの種類における「精神的な攻撃」に、2のケースでは「人間関係からの切り離し」に、3のケースでは「個の侵害」に該当すると考えられます。

1のケースでは、業務上改善した方が良い点を個別に指導すればい良いものの、皆の前で寄ってたかって問題点を挙げていくことは、本人に精神的な苦痛を与えパワハラとなり得ます。実際に被害にあった看護師さんは、後に精神を病んで休職するに至りました。

2のケースのように、業務上必要な仕事を教えないことも立派なパワハラです。指導する側からすると、調べればわかることまでなんでも聞かれるとうんざりするかも知れませんが、全く無視してしまうというのは問題です。

3のケースでは、当然親しい間柄であれば問題となるようなものではありませんが、本人が嫌がっているのに噂話のネタにするために執拗にプライベートを聞き出そうとするのはパワハラに値します。

先輩看護師と後輩看護師の間でも、指導の延長からパワハラに移行するケースが多いと考えられます。特に、自分自身がパワハラに抵触するような指導を受けて育った先輩看護師は、それをパワハラと捉えず同じように後輩看護師を指導してしまうことがあるのが問題と言えるでしょう。

医師から他職種に対するパワハラ

医療現場では医師の指示がなければ行えない業務が多数あるため、医師の立場が最も強くなりがちです。そのため病院内において自分が偉いと勘違いし、看護師をはじめとする他職種に対して高圧的な態度をとる医師がいるのも事実です。実際に例を挙げていきたいと思います。

  1. 手術中に執刀医が手術器械を渡す看護師の動作が気に入らず罵倒し続けた
  2. 病棟での作業中に指示の確認のため声をかけて来た看護師に対して怒鳴った
  3. 医師のカンファレンスに事務員を呼び出して不手際を大勢の医師達の前で非難した

1、2、3のいずれのケースもパワハラの種類における「精神的な攻撃」に該当すると考えられます。

1のケースでは、自分の要求するような動きになるよう指示する、もしくはどうしても手術の進行に影響が出る際は、よりスキルのある看護師に交代してもらう、などどうしても気に入らない点があれば、他に解決策があると考えられます。それを手術メンバーの前で罵倒し続けるのは業務上必要な指示の範囲を超えています。

2のケースでは、医師が自分の作業をしているときに声をかけられ、作業が中断されて頭にきた末に怒鳴ったのだと思いますが、やはり感情に任せて怒鳴った時点でパワハラに該当してしまいます。

3のケースでは、事務的なことで生じた不手際について、わざわざ本人を大勢の医師の前に呼び出して糾弾する形になっております。不手際があった事実をアナウンスし、本人には個別に改善策を提示すれば良いのですが、このように大勢の前で非難するのはパワハラに抵触してしまいます。

特に地方の病院などでは、昨今の医師不足から医師の確保に苦労していることも多く、辞められてしまうと補充が難しくなってしまいます。そのため医師の無茶な要求などに対して病院内の他職種は強く抗議できないことも、パワハラがエスカレートしやすくなる一つの問題と言えるでしょう。

病院での事例から考えるパワハラの定義についてのまとめ

以上、病院内における事例も参考にパワハラの定義や指導との違いについて考察いたしました。それでは簡単にまとめてみたいと思います。

  • 業務上必要な指示や指導などの範囲を越え被害者に苦痛を与える行為は「パワハラ」に該当する
  • パワハラは6つの種類があり特に人前で怒鳴るキレるといった「精神的な攻撃」はパワハラの中でも頻度が高い
  • 医療現場では体育会系の指導が多くかつ様々な職種が混在しておりパワハラが起こりやすい
  • 病院内では医師の立場が強くなりやすいため医師から他職種へのパワハラがエスカレートしやすい

指導とパワハラとの線引きが難しい場合もありますが、パワハラの定義や種類と照らし合わせて自分が精神的な苦痛や肉体的な苦痛を被っていると感じれば、それはパワハラである可能性が非常に高くなります。

特に「精神的な攻撃」はパワハラの中でも頻度が高いと言うデータもあり、我慢を続けると精神を病みかねません。自分が受けている行為がパワハラだと感じた際には、早めに 全国にある労働基準監督署内の「総合労働相談コーナー」に相談することを検討しましょう。

また、昨今の医師不足もあり病院内では他職種に対して立場が強いとされる医師といえども、パワハラが原因で辞めさせられるというケースは時々耳にします。

医師や指導者側も、自分が問題ないと思ってとった行為がパワハラに抵触することもあり得ますので、パワハラの定義や種類を頭に入れておくことが必要です。

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コメント

  1. 退学して良かった より:

    看護学校で、教員からの指導でさえ、アカハラばかりだから、いじめはなくならないでしょうね。
     身体的な指導(不必要に呼び出して、怒鳴りながら机をたたく)や、精神的な指導(実習などの指導の際、他の皆では怒鳴らないことでも人前で怒鳴る)、人間関係からの切り離し(あからさまな無視、他の学生は教えているのに教えない、カンファレンスで他の学生の前で私のコメントを不必要に罵倒し、私だけ至らない点のみ罵倒されるか、無視されるかをされる。)、過大な要求(実習で、いくら来ても単位はあげないといい、落ちたら2週間で、8000字のレポートを出させる。)、個の侵害(プライベートのことを聞き出しては、罵倒する。どういう風に育ったのか、看護師になりたいと思う自体どうかしているなど批判される。)