以前の記事「外科医の仕事内容からその忙しさを考察する」でも紹介しましたが、外科医には手術の執刀だけではなく様々な仕事があります。
外科医は仕事をする部署によって様々なスタッフと接します。同僚の外科医だけでなく、他の科の医師、看護師、事務員など、多くの職種と仕事をする機会があるのです。
そのような職場環境の中で、どのような外科医が好まれるのか、どのような振る舞いが評価を上げるもしくは下げるのかなどを知っておくことは、仕事を円滑に行う上で重要になってきます。
今回の記事では、外科医と一緒に働く様々なスタッフの声などに基づき、外科医の評価は部署によって割れるものなのかどうかを検証したいと思います。
Contents
外科医の主な仕事
外科医といえば「手術の執刀を専門とする医師」と思われがちですが、一日中手術だけをしているわけではありません。
手術をする前の患者さん、手術をした後の患者さんは病棟で日々診察し、退院していった患者さんは外来で診察します。
外科医が主に働く部署を以下に示し、各々の部署で一緒に働くスタッフを列記いたします。
- 手術室…麻酔科医、手術室看護師、臨床工学士など
- 病棟…病棟看護師、病棟薬剤師、看護助手など
- 外来…外来看護師、外来クラークなど
もちろん上記以外にも外科医が勤務する部署はありますが、今回はこれらの部署で外科医がどのような点で評価されるのか、解説していきます。
手術室で評価の高い外科医とは?
一般的にイメージされる外科医の職場は手術室ではないでしょうか?実際、診療内容に手術があるからこその外科医であり、手術室での勤務は大きなウェイトを占めます。
手術室では外科医のみで手術を行うわけではなく、主に以下のスタッフと協力して行います。
- 麻酔科医…麻酔の導入や手術中の麻酔管理、術後の覚醒など
- 手術室看護師…手術患者のケア、外科医への手術器の械受け渡しなど
- 臨床工学士…手術器械の点検や準備、人工心肺等の操作など
手術を円滑に進めるためにも、これらのスタッフと良好な関係を築いておくことは重要です。外科医と共同で仕事をする麻酔科医、手術室看護師は、外科医のどのようなところを見て評価しているのでしょうか?実際の声も交えて検証してみましょう。
麻酔科医からの評価
麻酔の種類や病院の体制にもよりますが、手術をする際の全身麻酔は一般的に麻酔科医が担当します。
外科医が手術に集中するためには、麻酔をかけて管理してくれる麻酔科医の協力は欠かせず、良好な関係を築くために普段から評価を高めておくに越したことはありません。
それでは、麻酔科医から外科医はどのような点で評価されているのでしょうか?実際の声を聞いてみたいと思います。
「〇〇先生は解剖をよく理解していて丁寧かつ素早い手術をしてくれる」
「△△先生は周囲を萎縮させるから麻酔科の若手を担当させづらい」
「〇〇先生は手術室スタッフと適切に連携し、患者さんの安全を優先している」
以上をまとめると、麻酔科医から評価の高い外科医には以下の特徴が当てはまります。
- 無駄な操作が少なく手術が早い
- 出血などのトラブルが少ない
- 麻酔科医を含む手術室スタッフに敬意を持っている
無駄の無い流れるような手技で手術が早く終われば、それだけ麻酔科医が全身麻酔をかける時間が短くなります。
全身麻酔が安全になっているとはいえ、薬剤で強制的に眠っているわけですから、患者さんにとってもより短時間で済む方が体への負担は減ります。
また、手術中に出血などのトラブルが起こって血圧が下がった際、生命維持のため即座に対応しなければならないのは麻酔科医ですので、トラブルが少なく安定した手術を遂行する外科医が好まれます。
外科医目線では手術の技術が高いことが最も優先されるべきものと考えますが、麻酔科医の協力があればこそより高いクオリティの手術が達成できるため、互いに敬意を持って接することも大切です。
手術室看護師からの評価
手術室看護師は、主に器械出し看護師と外回り看護師に大別されます。
双方に共通する仕事もありますが、器械出し看護師は手術の進行に合わせ外科医に器械の受け渡しを行い、外回り看護師は手術中の記録を付け、患者の状態把握や物品の補充等を行います。
それでは、手術室看護師から外科医はどのような点で評価されているのでしょうか?実際の声を聞いてみたいと思います。
「△△先生の手術は毎回予定時間を大きくオーバーするから次の手術を入れにくい」
「◯◯先生は手術中淡々とこなして、イライラしたり急かしたりしないから入りやすい」
「△△先生は行き当たりばったりで手術するから次の動きが読みにくい」
以上をまとめると、手術室看護師から評価の高い外科医には以下の特徴が当てはまります。
- 予定手術時間から大きくずれない
- 冷静に手術を遂行する
- スタッフと打ち合わせを十分に行う
1日の手術のスケジュールは予定された手術時間をもとに作成していきます。
手術時間が大きく延びてしまうと、次の手術を始める時間がずれ込んだり、長引いた手術に人員が取られスタッフの確保ができなくなったりと様々な弊害が生じてしまいますので、予定された時間内に手術をする外科医が好まれます。
また、外科医、特に執刀する医師は手術中の指揮者的な役割を担っています。
急なトラブルが発生した際も冷静に対処し手術室看護師に適切な指示を出せる外科医や、新たな手術などを行う際に事前に十分な打ち合わせを行い、手術室看護師と円滑に手術を進められる外科医の評価は高くなります。
病棟で評価の高い外科医とは?
外科医は手術に関連した患者さんを主治医として受け持ちます。
それらの患者さんは病棟に入院しているので、回診や処置をしたり、病棟看護師に指示を出したりと、病棟に顔を出さない日はありません。
病棟では主に以下のスタッフと関わりながら仕事をします。
- 病棟看護師…入院患者の状態観察、採血や点滴などの医療行為、回診の同行など
- 病棟薬剤師…入院患者への服薬指導、副作用の把握、医師への情報伝達など
- 看護助手…病棟看護師の補助業務、病棟の環境整備など
手術で病棟を空けることも多い外科医にとって、病棟のスタッフとのコミュニケーションは必須です。
病棟において外科医と最も関わりを持つ病棟看護師は、外科医のどのようなところを見て評価しているのでしょうか?実際の声も交えて検証してみましょう。
病棟看護師からの評価
外科病棟には、主に手術を受ける前の患者さん、手術を受けた後の患者さん、手術はしていないが外科的な治療が必要となりそうな患者さんなどが入院しています。
病棟看護師の業務は、入院患者さんの状態を把握して医師に報告したり、医師の回診に同行し処置を補助したりと多岐にわたっています。
入院患者さんに最善の治療を施すうえで、外科医と病棟看護師との連携は欠かせません。
それでは、病棟看護師から外科医はどのような点で評価されているのでしょうか?実際の声を聞いてみたいと思います。
「◯◯先生は朝の回診後に指示を出してくれるけど、△△先生はいつも夕方にしか指示を出してくれないから困る」
「△△先生のカルテはほとんど記載がないから一緒に手術に入っていた◯◯先生にいつも手術の内容を聞いてる」
「◯◯先生は患者さんに異常があるとすぐ見に来てくれるから安心できる」
「△△先生はコールすると不機嫌になるから相談しにくい…」
以上をまとめると、病棟看護師から評価の高い外科医には以下の特徴が当てはまります。
- 早めに指示を出す
- カルテをきちんと記載する
- 患者の異常時にすぐ対応する
医師から出された薬や点滴、検査の指示をスケジュールに組み病棟看護師は動きますが、指示が遅ければ遅いほど他の業務の合間にねじ込まなければならなくなり、時には手が回らなくなってしまいます。
もちろん手術が終わらなければ出せない指示などもあるので、全て早い時間帯に指示を出すことは出来ませんが、朝の時点で決められるような指示はその時点で出すべきでしょう。
なお、カルテは患者さんに関わるスタッフの間で情報を共有するものなので、病棟看護師を含め他のスタッフが見ても分かるよう記載する必要があります。
どのような手術をしたか、現在何か問題となる病状があるか、などといった情報をしっかり共有することで、病棟看護師側も何に気を付けて患者さんのケアや状態観察すべきか分かります。
また、外科医がどんなに気をつけて手術をしても、一定の割合で患者さんに合併症が起きてしまうことがあります。
その際、病棟看護師が状態の変化に気付けられれば、早急に担当医師に連絡して患者さんへのダメージを最小限にとどめることができます。
しかし、いくら異常を伝えようにも、担当医師にコールした際に機嫌を悪くされてしまえば連絡する閾値が上がってしまいます。
そのため、病棟看護師の連絡に対して迅速に、的確に対応してくれる外科医の評価は高くなります。
外来で評価の高い外科医とは?
手術室、病棟での勤務のみならず、外科医は外来で診察も行います。
病院や役職によってコマ数は違いますが、外科医も週1~2コマ程度は外来を持ち、手術相談に回ってきた患者さんや、手術後の患者さんの診察を行います。時には救急外来で患者さんを診察することもあります。
外来では主に以下のスタッフと関わりながら仕事をします。
- 外来看護師…患者さんの予診、診療や処置の補助、患者さんへの各種説明など
- 外来クラーク…受付や電話対応、書類の整理、患者さんの誘導、患者さんへの各種説明など
外科外来のスタッフ構成や仕事内容は、病院によって大きく異なります。
また、外科医が外来中にスタッフとあまり関わる機会がない病院から、逆に診察室にスタッフが常駐している病院まで様々です。
とは言え、外来スタッフと全く関わりがないことはありませんので、円滑に外来業務をこなすうえで良好な関係を築くに越したことはありません。
これらスタッフは、外科医のどのようなところを見て評価しているのでしょうか?実際の声も交えて検証してみましょう。
外来スタッフからの評価
外来看護師の業務は病院の体制によって大きく異なり、外来クラークの仕事を兼ねることもあります。また、逆に外来クラークが外来看護師に近い業務を担当することもあります。ですので、ここでは外来スタッフとしてまとめて説明させてもらいます。
外来スタッフの仕事として、外来を担当する外科医が診察を効率よく出来るようアシストすること、患者さんに対し適切に検査の説明や検査室への誘導を行い、入院を要する患者さんに対しては病棟に案内して病棟スタッフに的確な申し送りを行うことなどが挙げられます。
外来スタッフとしっかり連携することによって、外科医は診療に集中する事ができるのです。
それでは、外来スタッフから外科医はどのような点で評価されているのでしょうか?実際の声を聞いてみたいと思います。
「△△先生の外来は凄く長引くから毎回残業になる」
「◯◯先生は傷を綺麗に縫うから自分が怪我した時は診てもらいたい」
「△△先生のクレームをいつも私たちが受けないといけない」
以上をまとめると、外来スタッフから評価の高い外科医には以下の特徴が当てはまります。
- タイムマネージメントができる
- 処置が適切で手技が上手
- 患者さんへの接し方が丁寧
外来では、決められた時間内に複数の患者さんを診察しなければなりません。
一人一人に時間をかけ過ぎるとその後に控えている患者さんの待ち時間は延び延びになってしまい、クレームへと繋がってしまううえに、規定の外来時間を超えてしまうと外来スタッフも拘束されてしまい、残業を強いられてしまいます。
もちろん、診察や処置で時間がかかってしまう患者さんもいるのは確かですが、時間のかからない患者さんには早く簡潔に診療を済ませてその分時間をかけるべき患者さんに回すようにする、といったタイムマネージメントのスキルがあれば、そこまで大きな問題とはならないでしょう。
また、処置などを補助するスタッフは外科医の手際や手技をよく見ているもので、ある程度手技の上手下手を評価されます。
さらに、手技の上手下手以前に患者さんへの接し方が悪いと、診察後外来スタッフにクレームがきたり、とばっちりが来ることがあります。
こうして外来スタッフからの信頼度が下がってしまうと、より信頼できる外科医の外来へそれとなく患者さんを誘導されることも起こり得てしまいます。
外科医の評価は部署によって割れるものなのか?のまとめ
以上、外科医の評価は部署によって割れるものなのかどうかを検証しました。まとめると以下のようになります。
- 手術室、病棟、外来で評価されるポイントはそれぞれ異なるもの共通するものがある
- 手術室と病棟では仕事内容の差からか評価されるポイントが大きく異なる
- 手術室と外来ではタイムマネージメントが重要視される傾向がある
外科医が評価される点は、各部署における外科医の業務の違いから異なることが分かります。特に、手術室と病棟ではその違いが顕著です。
実例を挙げると、手術が丁寧すぎて度々予定時間をオーバーするため、麻酔科医師や手術室看護師からの評価が低い外科医が、病棟では患者さんに何かあるとすぐ駆けつけるため評価が高かったりします。
しかし外来で患者さんへの説明が長すぎて、後に控える患者さんの待ち時間が長くクレームがきたりと、同じ外科医でも評価が割れることが多いのです。
もちろん各部署で共通する評価項目もあります。予定の時間が定められている手術室と外来ではタイムマネージメントができる外科医の評価が高まります。
全ての部署で完璧な評価を得られる外科医を目指すのは簡単なことではありませんが、各部署でどのような立ち振る舞いが評価されるかを意識して勤務するだけでも、外科医としての総合力がアップすることは間違い無いでしょう。
取材協力:
みよ麻酔科医師(Twitter: @joytokidoki)
麻酔科まるか(Twitter: @Masuika_Maruka)
まるる麻酔科まるか(Twitter: @maruru209)