SNS等で、定期的に医師の出身大学に関する議論がなされることがあります。
多くが国公立大学の医学部出身か私立大学の医学部出身か、偏差値の高い医学部か否かによって医師としての能力が異なるのか?と言ったものがほとんどです。
医学部を出て国家試験に受かれば皆同じ医師という職業になる中で、果たして学歴が医師としての能力やキャリアに影響を及ぼすのでしょうか?
今回の記事ではキャリアの話に先立ち、本邦にどのような医学部が存在し、それらが設立された経緯などによってどう分類され、入学難易度がどのように異なるのか調べてみたいと思います。
全国にはどんな医学部があるのか?
2020年2月現在、日本全国82の医学部が存在しています。
その内訳として、42校は国立大学の医学部、8校は公立大学の医学部、31校は私立大学の医学部、1校は準大学(防衛医科大学)となります。
中でも私立の自治医科大学、産業医科大学および準大学である防衛医科大学は目的別医科大学に分類されます。
一般的には、
- 学費 私立大学>国公立大学
- 入学の難易度 国公立大学≧私立大学
という傾向があります。
しかし、都心の私立大学の一部は地方の国公立大学より入学難易度が高く、2000年代前半頃より学費を大きく下げて、入学の難易度がさらに上がった私立大学もあります。
また、入試難易度は時代とともに大きく変化し、2000年代に入ってからは国公立・私立を問わず医学部の難易度は軒並み上がっている状況で、国公立大学と私立大学の入学難易度の差は1990年代以前に比べてかなり狭まっている印象です。
続いて、学歴ネタが好きな人がよく話題にする、国公立大学および私立大学医学部の細かい分類を見ていきましょう。
国公立大学医学部の分類
国公立大学医学部には様々な分類方法がありますが、旧帝大、旧六などは耳にしたことがある人も多いと思います。
それではそれぞれ順に解説していきましょう。
旧帝大
旧帝国大学(の医学部)を略して旧帝大と呼びます。
第二次世界大戦が終戦となるまで存在していた、帝国大学の医学部を前身としており、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の医学部が含まれます。
数ある医学部の中でも最も歴史のある群になります。
旧六
旧六医科大学を略して旧六や旧六医大と呼びます。
いずれも大正時代に、医学専門学校から医科大学に昇格し、その後官立となった大学の医学部を前身としており、新潟大学、金沢大学、千葉大学、岡山大学、長崎大学、熊本大学の医学部が含まれます。
ちなみに京都府立医科大学も大正時代に医学専門学校から医科大学に昇格しましたが、旧制医科大学のまま現存する唯一の大学のため旧六には属しません。
旧帝大の医学部同様、設立されてからかなり歴史のある群になります。
新八
新八医科大学を略して新八や新八医大と呼びます。
第二次戦後に医学専門学校から国立の医科大学に昇格した大学を中心として構成されており、弘前大学、群馬大学、信州大学、東京医科歯科大学、鳥取大学、広島大学、徳島大学、鹿児島大学の医学部が含まれます。
いずれも第二次世界大戦で治療の需要が増したことを背景に設立された医学専門学校が前身となっているだけあって、旧帝大、旧六に次ぐ歴史があります。
旧設公立医科大学
第二次世界大戦後に、医学専門学校から旧制公立医科大学となった大学を前身とする医学部です。
札幌医科大学、福島県立医科大学、横浜市立大学、名古屋市立大学、岐阜大学、三重大学、大阪市立大学、奈良県立医科大学、和歌山県立医科大学、神戸大学、山口大学の医学部が含まれます。
ちなみに広島大学と鹿児島大学も同様に第二次世界大戦後は一旦公立(県立)医科大学となりましたが、他の大学に先駆けてに国立大学となった経緯から新八に分類されます。
新設医大
1970年代に田中角榮が提唱した「一県一医大構想」に基づいて設立された大学(ないしは医学部)です。
旭川医科大学、秋田大学、山形大学、筑波大学、富山大学、福井大学、山梨大学、浜松医科大学、滋賀医科大学、島根大学、香川大学、愛媛大学、高知大学、佐賀大学、大分大学、宮崎大学、琉球大学の医学部が含まれます。
国公立大学の入学難易度
一般的な傾向として、入試の難易度は医学部としての設立の古さに比例する傾向があり、
- 旧帝大>旧六>新八=旧制公立医科大学>新設医大
というイメージがありますが、実際は大都市圏に存在する医学部は設立年度に関係なく人気が高くなる傾向があり、東京医科歯科大学や京都府立医科大学、神戸大学等は旧帝大に匹敵するぐらいの入学難易度を誇ります。
私立大学医学部の分類
私立大学医学部も国公立大学医学部同様、様々な分類方法がありますが、代表的なものを挙げてみます。
御三家
私立旧制医科大学とも呼ばれ、第二次世界大戦前から存在する私立旧制医科大学を前身とする医学部です。
慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学が含まれます。
第二次世界大戦中に設立された日本大学の医学部も御三家と同じ私立旧制医科大学の群に含まれることもあります。
旧設私立医大
第二次世界大戦後に旧制医科専門学校から医科大学になった私立大学を前身とする医学部です。
順天堂大学、昭和大学、東京医科大学、大阪医科大学、久留米大学、岩手医科大学、関西医科大学、東京女子医科大学、東邦大学の医学部が含まれます。
新設医大
国立大学の新設医大同様、1970年代に入って設立された大学(ないしは医学部)です。
杏林大学、北里大学、川崎医科大学、帝京大学、聖マリアンナ医科大学、愛知医科大学、埼玉医科大学、金沢医科大学、藤田医科大学、兵庫医科大学、福岡大学、獨協医科大学、東海大学、近畿大学の医学部が含まれます。
2010年代に入って新設された医学部
2010年代に入り約40年ぶりに2校に医学部が新設されました。
2016年に設立された東北医科薬科大学の医学部は東日本大震災からの復興支援の枠として設立され、2017年に設立された国際医療福祉大学の医学部は国家戦略特区となっている千葉県成田市に設立されました。
私立大学の入学難易度
国公立大学同様、一般的な傾向として入試の難易度は医学部としての設立の古さに比例する傾向にあり、
- 御三家>旧設私立医大>新設医大
というイメージがありますが、国公立同様、大都市圏に存在する医学部が人気が高くなる傾向にあり、さらに学費が低めである順天堂大学や昭和大学などは軒並み難易度が高くなっており、地方の国公立大学を蹴って入学する学生さんもいます。
目的別医科大学の内訳
目的別医科大学と呼ばれる、行政機関に関連した医科大学が全国には3つあります。
- 防衛医科大学…防衛省管轄の準大学で、自衛隊の医官の養成を目的としています
- 自治医科大学…総務省が設置した私立大学で、僻地医療と地域医療に従事する医師の養成を目的としています
- 産業医科大学…厚生労働省が設置した私立大学で、産業医の養成を目的としています
いずれの大学も卒業後、一定期間(9年間であることが多い)所轄の医療機関等で勤務することで、学費が実質無料化されたり、負担額が大きく減少したりします。
ただし、その一定期間の義務を果たさなければ数千万円におよぶ高額な学費(ないしは貸与金)を返還せねばなりません。
一定期間の義務があるためキャリア形成の自由度が損なわれることを差し引いても、学費の面などの影響もあり、3校とも入学難易度はやや高めです。
医学部の分類のまとめ
以上のように、本邦の医学部は設立された経緯などの歴史を紐解くと、かなり細かく分類することができます。
それでは今回の記事を簡単にまとめてみましょう。
- 全国には82の医学部があり設立時期や経緯により分類される
- 設立の古い医学部ほど入学難易度が高い傾向にある
- 都会の医学部や学費の安い私立大学は入学難易度が高い
冒頭でも述べたように、どの医学部を卒業しても医師国家試験に受かれば皆同じ土俵に立つので、医師として働く分には学歴は関係なさそうに思えます。
しかし、なまじ医学部間で設立されてからの歴史や入学難易度に差があるため、SNS等での議論に見られるよう、学歴を気にする医学生や医師は一定数存在します。
次回の記事では、実際に私が医師としてキャリアを積む中で学歴がどの程度影響したかどうかを検証していきたいと思います。