新聞に、入院中の看護師さんからのため口が気になったという患者さんからの投書があり、SNSで話題となりました。
内容を要約すると、70代女性が入院した際に看護師さんのため口を使われ、下に見られているように感じた、という内容のものでした。
確かに病院で勤務していると、患者さんにため口を使うスタッフが一定数いることが目に付きます。
看護師さんに限らず、医師や事務員、理学療法士など患者さんに直接接する医療スタッフに幅広く…。
今回の記事では、なぜ医師や看護師が職場でため口を使うことがあるのか、そしてため口で患者さんと話すことは許容されるのかを検討してみたいと思います。
Contents
「ため口」の意味
先ず、「ため口」とは正確にはどういう意味なのか辞書で調べてみましょう。
ため口:相手と対等の立場でものを言うこと。その口のきき方。
引用: 広辞苑 第七版 岩波書店 2018
辞書的にため口は「対等な立場にあるもの同士」が使う口の聞き方のようです。
確かに、医療現場では医療従事者と患者は対等の立場で、と言われることがあります。
そう考えるとお互いにため口を使うのは一見理にかなっているように見えます。
しかし、一般的に考えるとため口はあくまで「親しい間柄」や「自分と同じ歳か歳下の相手」か、「ある程度人間関係ができた間」などで使うイメージの方が強いのではないでしょうか?
ましてや高齢者の多い病院で、患者さんより若いスタッフが最初からため口で話しかけるというのは違和感がありますね。
医師や看護師がため口を使う理由
医療を除く他のサービス業と違い、なぜ病院では患者さんに対してため口を使う医療スタッフが多いのでしょうか?
私自身常日頃から疑問に思っておりましたので、医師と看護師に絞って患者さんにため口を使う派の意見を聞いてみましたのでそれぞれ紹介してみましょう。
ため口を使う医師の意見
職場で患者さんに対してため口を使う医師はの意見には以下のようなものがありました。
- 先輩医師が患者さんにため口で診療していたから
- ため口を使った方が患者さんとの距離が縮まる
- 患者さんがため口で話しかけてくるとこちらもため口になる
医師のトレーニングは、先ずは先輩医師の真似をすることからスタートしますので、先輩医師がため口で患者さんに接していると次第とそのカラーに染まってしまいかねません。
逆に患者さんからため口で話しかけられたら、医師もついため口で返してしまうというケースもあるようです。
ため口を使う看護師の意見
実際に職場で患者さんに対してため口を使う看護師さんになぜ使うのかを聞いてみました。
すると以下のような意見が返ってきました。
- 経験を積むにつれ自信が出て来てため口になった
- 噛み砕いて患者さんに説明するにはため口の方が良い
- 親しみを込めて話すと自然とため口になる
以上、様々な意見が散見されますが、病棟では医師よりも看護師さんの方が患者さんと接する時間が長くなるためか、距離を近づけるためにため口を使ってしまう、という意見が医師よりも多いような印象でした。
ため口を使われたことに対する患者さんの意見
医療従事者がため口を使うのにもそれなりの理由があることが分かりました。
それでは患者さん側は、病院で医療スタッフにため口を使われたことに対して、一体どのように感じているのでしょうか?
病院やクリニックの口コミを見ると以下のような意見が散見しております。
- 患者に対してため口で接遇が全くなっていない
- 信頼関係が構築される前からのため口が気になった
- 患者には敬語で距離感を保ってほしい
- 偉そうに感じて気に障る
以上、冒頭の新聞投書と同様にため口を使われることに対して不快と感じる意見が多いような印象です。
私自身の経験で、学生時代に母の診察に付き添った際に、30代ぐらいの医師が終始ため口で母の診察をしており、すごく上から目線な医師だな、と感じたことがあります。
本人は気にしていなくても、私のケースのように付添いの家族の気に障るケースもあります。
実際に病院への投書箱で、付添いの家族から私と似たような意見を見たこともあります。
ため口を使われることに不快感を感じる患者さんや家族の方が、親しみを感じる患者さんより多いということは容易に予測できますね。
医師や看護師がため口を使うことは許されるのか?
以上を踏まえて、医師や看護師をはじめとする医療スタッフが患者さんん対してため口を使うのは果たして許容されるのでしょうか?
確かに私が過去に勤務していた医療過疎地では、医療スタッフを崇めるように接する患者さんも多く、むしろため口で話した方が歓迎されるような雰囲気も漂っていました(私はそれでも敬語を貫きましたが…)。
しかしその後、都市部の病院で勤務するようになってからはそのような患者さんはごく少数派で、医療者と同じ目線での対話を求める患者さんの方が圧倒的に多くなりました。
恐らく全国的にみても、一部の地方以外はこうした意識の患者さんの方が多いのではないかと思われます。
こうした患者さん対していきなりため口で接すると、偉そうだと感じとられたり、距離感をきちんと保って欲しいということになり、クレームの原因となり得ます。
敬語を使われて不快に感じたという意見は聞きませんが、ため口を使われて不快に感じる患者さんの意見が多数です。
そのため、ため口を使って患者さんに接するデメリットの方が大きく、医療機関の体制としてあまり許容すべきではないのでは、というのが個人的な意見です。
もちろん、個人的な信頼関係が出来上がった際はその限りではないのかも知れませんが。
医師や看護師のため口についてのまとめ
それでは医師や看護師のため口についてまとめてみましょう
- 医療従事者の患者さんへのため口は不快に感じられることが多い
- ため口を使う医療従事者からは患者さんと距離を縮めたいという意見が多い
- 患者さんにため口を使うデメリットを考慮すると敬語で話す方が無難
新聞投書や口コミを見るに、医療者側からため口を使われることに対して、不快感を感じている患者さんは多いようです。
一方、ため口を使う医療者は患者さんとの距離を縮めたいという思いが強い印象を受けます。
しかし、不快に感じる患者さんが多い現状、敬語で話しておいた方がトラブルを防げるのではないでしょうか?
医療事故などが起こった際に、患者さんや家族が医療者に対して不信を抱き、訴訟等に発展するのは日々の細かい積み重ねからです。
そういったトラブルを回避する意味でも、医療機関の体制としては患者さんへのため口は許容すべきではないかと思います。