引用元:https://www.tv-asahi.co.jp/doctor-x/
2019年11月14日21時より、「ドクターX 第6シリーズ 第5話」が放送されました。
今回はダンベル型神経鞘腫とその治療方針、診断に至る検査についてテーマとなっておりました。
前回同様、私の専門である消化器系の病気ではありませんが、今回の話の背景やドラマの提唱するメッセージを含めて、現役の外科医の視点から解説していきたいと思います。
なお、前回の記事はこちらになります。
Contents
「ドクターX 第6シリーズ 第5話」のあらすじ
東帝大学病院長・蛭間は、病院の看護師の意識向上ために日本看護師連合会名誉会長・三原を講演に招待しました。
実際は蛭間の政治的な意図があったのですが、三原のあまりに時代錯誤をした講演は途中で強制的に打ち切られました。
怒って帰る三原とばったり出会ったフリーランス外科医・大門は、彼女が右胸を押さえて痛がっていることに違和感を感じました。
その後、自宅で意識を消失し東帝大学病院に緊急入院となった三原ですが、頑なに検査を受けることを拒みます。
過去のCTを取り寄せて、三原の胸椎に手術の必要な「ダンベル型神経鞘腫」出来ていたことに気付いた東帝大学病院スタッフでしたが、三原は治療を受けようとしません。
理由は背中に家族にも黙っている大きな刺青があり、その発覚と手術によって刺青が切られることを恐れていたからです。
最終的に大門はフリーランス麻酔科医・城之内と新人オペ看・大間と3人で極秘に、背中の刺青を切らないアプローチでなんとか手術を行なったのでした。
今回はダンベル型神経鞘腫という聞き慣れない病気に加えて、看護師の働き方や看護はどうあるべきかという要素も描写されていました。
「ドクターX 第6シリーズ 第5話」で取り上げられた疾患
今回は以下に挙げる疾患が取り上げられました。
- ダンベル型神経鞘腫
- 上部消化管出血
ダンベル型神経鞘腫に関しては医師の私でさえ専門が違うため聞きなれない疾患ですが、解説していきます。
ダンベル型神経鞘腫
先ず、神経鞘腫とは神経を構成する細胞から発生する腫瘍で、基本的には成長もゆっくりで他の臓器などに転移を来したりはしない良性の腫瘍です。
ダンベル型神経鞘腫とは、この神経鞘腫がダンベル状の形で2ヶ所以上の部位にまたがって成長したものになります。
先述したように、基本的には良性の腫瘍なのですが、成長に伴い他の神経を圧迫したりなどすると、痛みや痺れなど様々な症状を来すことがあります。
ドラマではTh(テーハー)9にダンベル型腫瘍あり、とカンファレンスの時に言ってましたが、これは胸椎の9番目にダンベル型の腫瘍が出来ている、ということになります。
三原が右の胸を痛みで押さえていたのは、腫瘍が肋間神経(肋骨沿いを通る神経)を圧迫していたからかも知れません。
良性の腫瘍は放っておいても直接生命に関わることは少ないですが、慢性的な痛みや痺れは生活の質(QOL)を悪くしますので、そのような場合は手術の適応になります。
上部消化管出血
一旦の退院を前にして三原は病室で突然吐血しました。
そのシーンで大門は三原が何らかの錠剤を多数持っていたことに気付きます。
これは医療従事者でないと何を表現しているのか分からないかも知れません。
解説すると、一部の鎮痛剤(商品名ではロキソニン)には使用に伴い胃が荒れることがあります。
頻繁に使用していると、場合によっては胃潰瘍や十二指腸に潰瘍ができ、作中の三原の様に吐血することもあります。
因みに作中で用いられた上部消化管出血の上部消化管とは、食道・胃・十二指腸の総称になります。
鎮痛剤と共に胃薬を処方された経験のある方もいらっしゃると思いますが、これはそうした胃へのダメージを防ぐ目的があります。
三原は「腫瘍による痛みを抑え込むために、胃潰瘍から出血するほど頻繁に鎮痛剤を使用していた」ということがこのシーンに込められていたのでした。
「ドクターX 第6シリーズ 第5話」を見て興味深かったシーン
さて、ここからは現役の外科医である私から見て興味深かったシーンを解説していきましょう。
私は以下の台詞が出てきたシーンで特に興味を惹かれました。
- オペ看がいないとオペが出来ない
- 器械出しには迅速かつ正確な判断力が必要
- MRIは火傷の危険性がある
それではそれぞれのシーンを順に解説して行きましょう。
「オペ看がいないとオペが出来ない」という台詞が出てきたシーン
外科医が主人公のドラマや小説、漫画では、手術の描写で外科医にのみスポットが当たることが多いです。
しかし、実際の手術には執刀する外科医のみならず助手の外科医、麻酔をかけて手術中に麻酔の管理をする麻酔科医、外科医に器械を渡す看護師、手術室の中で記録を取る看護師など複数のスタッフが参加します。
ドラマでフリーランス外科医・大門は、フランスに出張中のニコラス丹下から「自由に手術をして良い」と許可されましたが、いくら大門が自由に手術をしたくてもオペ看(手術の器械を渡す看護師や手術室で記録を取る看護師)が揃っていなくては手術を行うことは出来ません。
実際の現場でも、手術室に空きがあり、外科医もフリーでいつでも手術ができる状態であっても、オペ看が他の手術などに参加してが空いていないため手術が開始できない、という状況は起こり得ます。
「器械出しには迅速かつ正確な判断力が必要」という台詞が出てきたシーン
多くの外科手術で、手術に用いる道具(器械)を術者に渡す看護師さんが付きます。
そのような看護師さんは、器械出し、直介(ちょっかい)、スクラブナース等呼ばれます。
手術中、術者やその助手は術野 (まさに手術で扱っている部位)に集中しなければならず、器械を持ち帰るごとに術野から目を離すというわけにはいきません。
そのため術者が言った通りの器械をスムーズに渡してくれる器械出しが付いているか否かで、手術の進行は変わってきます。
特に優秀な器械出しともなると、次に術者はどのような動きをするか、ということを先読みして渡す器械を準備しています。
麻酔科医・城之内が新人オペ看・大間に言った「器械出しには迅速かつ正確な判断力が必要」という台詞にはこうした背景があるのです。
「MRIは火傷の危険性がある」という台詞が出てきたシーン
日本看護師連合会名誉会長・三原は、頑なに検査を受けることを拒んでいました。
そこまで拒むことに疑問を持っていた大門は、最終的に三原の背中に大きな刺青があることを知り、一通り何とか検査を終えた後「MRI(磁気共鳴画像診断装置)は火傷の危険性があるので撮らなかった」と言いました。
病院でMRIを撮る際も、患者さんに刺青の有無を必ず聞きます。刺青で用いる顔料がMRIに反応し、熱を発することがあるからです。
しかし実際にはMRIで刺青を入れた部位が火傷をする可能性は低く、刺青の部位が熱くなるだけで終わることが多いです。
ただし、低温火傷の可能性はゼロではありませんし、患者さんがその熱さに耐えられずMRI検査を完了できず、中断することもあります。
もし、他の検査でダンベル型神経鞘腫がどこまで広がっているか判りずらかったら、背中に刺青が入っているとはいえMRIの撮影を検討しても良かったのかも知れませんね。
現役の外科医が「ドクターX 第6シリーズ 第5話 」のまとめ
今回の記事では、「ドクターX 第6シリーズ 第5話 」のあらすじについて、簡単に説明させていただき、現役の外科医目線で興味深かった点についての考察を行いましたので以下にまとめて見ましょう。
- 手術は外科医だけでは行うことが出来ない
- 優秀な器械出しは迅速かつ正確な判断力が必要
- MRIは刺青が入っている人には行うことが出来ない?
いくら手術室に空きがあり、外科医が手術をしたいと思ってもオペ看を始めとする手術室のスタッフの手が空いていないことには手術を始めることは出来ません。
一つの手術を行うには実は綿密なスタッフの配置の調整などが必要なのです。
また、手術をスムーズに行うには、執刀する外科医の技量が高いことが必要であるのは言うに及ばず、手術中に外科医に器械を受け渡しする、機会出しの看護師の技量も問われます。
優秀な器械出しは手術の状況に応じた迅速かつ正確な判断を行うことが出来るものです。
最後に、第5話のトピックとなった刺青に関してですが、刺青を入れているからと言って必ずしもMRI検査が受けられなくなる訳ではありません。
しかし、火傷のリスクは低いながらもゼロではありませんので、実際の現場では火傷のリスクとMRI検査を行わないことによるデメリットを照らし合わせて考慮する必要があります。
それでは次回、第6話は後腹膜胚細胞種と肝細胞癌がテーマになりますが。引き続き考察していきたいと思います。