現役の外科医が「ドクターXスペシャル -復刻版-」のあらすじを考察!

2018年9月30日21時より、「ドクターXスペシャル -復刻版-」が放送されました。復刻版とありますが、これは2016年7月に放送された作品に未公開映像を加えたものでした。

職業柄、医療ドラマを観るのが好きな私としては、2018年の秋ドラマでドクターXは放送されないのは残念ですが、久しぶりに地上波で米倉涼子さん扮する大門未知子の活躍を観られたのは嬉しかったです。

今回の記事では、簡単に「ドクターXスペシャル -復刻版-」あらすじをまとめ、現役の外科医の視点で観た際に違和感を感じた点、興味深かった点を挙げていき、ドラマに込められた意図やメッセージを考えてみたいと思います。

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「ドクターXスペシャル -復刻版-」のあらすじ

金沢に美味しい寿司屋を探しにきていた大門未知子(米倉涼子)は、道端で倒れた患者に出くわし、そのままクロス医療センターへの救急搬送に付き添ってその患者を手術で治療します。

その腕前を気に入ったクロス医療センターの院長黒須貫太郎(ビートたけし)の希望により大門は同医療センターに雇われることになり、「慢性血栓性肺高血圧症」という難病を患って難度の高い技を繰り出せなくなった世界的なフィギュアスケーター、氷室光二郎(伊野尾)の治療を担当することになりました。

氷室の病気は手術で治す方針となったため、大門が執刀を行う予定となったのですが、夜道で暴漢にナイフで襲われた大門は右手を骨折してしまい、手術を担当できなくなってしまいました。

そうした経緯もあり、最終的に氷室の病気は手術で治療はせずに、新薬(新しく開発された薬剤)で内科的な治療を行うことに切り替わりました。

これはクロス医療センターが、日本の新薬開発の拠点であることから、施設の立場的に手術で治療したらまずいと判断した黒須院長の策略によるもので、大門を襲わせたのも彼が裏で糸を引いていたのでした。

最終的に氷室の病気は新薬の治療を持ってしても改善せず、スケートの練習中に倒れて救急搬送されてしまいました。時を同じくして、骨折からなんとか回復した大門によって手術が敢行されることになり、手術は無事成功し氷室は難度の高い技を繰り出せるよう回復しました。

以上が簡単なあらすじになりますが、手術で患者を治したい大門未知子と新薬で内科的な治療で患者を治そうとする黒須医療センター側の対立が印象的でした。

「ドクターXスペシャル -復刻版-」を外科医が見て違和感を感じたシーン

さて、外科医の視点から見ても面白かった「ドクターXスペシャル -復刻版-」ですが、実際の現場と比べて違和感を感じるシーンもありました。特に気になったのは以下のシーンです。

  • 心臓マッサージで救急搬送した後に緊急手術となるシーン
  • ドクターXで定番の手術前の手洗いシーン

それではそれぞれどう違和感を感じたのか説明していきましょう。

心臓マッサージで救急搬送した後に緊急手術となるシーン

ドラマの初めの方で大門未知子は、「血気胸(血液と空気が胸の中にたまる病気)」となった患者に心臓マッサージを行いながら、クロス医療センターに患者を救急搬送し、そのまま緊急手術を行いました。

心臓マッサージを行なっていたという状況と、大門未知子の説明によると患者は「進行した肺癌が大動脈を巻き込んだため、大動脈に孔が開いてしまい、胸の中で大出血を来たした」という状態なので、恐らく出血のショックで心停止(心臓の動きが停止すること)してしまったのではないかと思われます。

しかしその割には、続く手術室のシーンではあまり慌ただしい様子もなく手術が行われていました。

通常、出血が原因でショック状態(血圧が著しく下がっている状態)となれば、迅速に輸血や点滴を行なったり、迅速に止血を行わなければなりません。心停止までしていたら蘇生措置(心臓の動きを再開させる措置)を行わねばならず、かなり現場はかなり慌ただしくなります。

心臓マッサージをされているというか救急搬送の描写と、胸の中で大量に出血しているという状況から考えると、普段予定で行う手術のように、悠長に手術を行える状況ではなかったのではないかと考えられます。

同じような状況であれば、出血を止めるために救急外来に着いたらそのまま開胸(胸を切開し胸の中を露出すること)し、直接手で心臓を握って動かしたり、直接大動脈を遮断し止血(出血を止めること)することもあります(実際私はそこまでの状況に出くわしたことはありませんが)。

そうしたことから、救急搬送のシーンからから手術室のシーンに変わってやけに状況が落ち着いていたので違和感を感じました。

もっとも、実際の現場と状況と同じような描写を取っていたら、今回のドラマの鍵となる登場人物同士が会話をする余裕もありませんので、ドラマの状況も説明できず成り立たないと思いますが。

大門未知子が患者の心臓マッサージをしながらクロス医療センターに入ってきたのは、恐らく心臓マッサージという演出が救急搬送のシーンに緊張感を持たせるからだろうとも感じました。

手術前の手洗いシーンの違和感

ドクターXでは、手術前に手を洗いながら外科医同士が会話するシーンが定番になっています。しかし、ここで違和感があります。それは、誰も手術前の手洗いの際にマスクをきちんと装着していないことです。

マスクをはめずに会話をすると唾液が飛んでしまい、折角清潔に手を洗っても台無しになってしまいます。ですので、通常はマスクをきちんと装着してから手術前の手洗いを行います。

実際の手術の流れいついては、以下の記事もご参照下さい。

医療系ドラマなどではしばしば手術のシーンが出てきます。医療従事者で無ければ、自分が手術を受けない限りは手術室に入る機会はほとんどないと思...

しかし、恐らくマスクを装着したままだと表情が読みにくかったり、誰が喋っているか分かりにくくなるので、手洗いのシーンでは演出として敢えてマスクを外しているのだと思います。

「ドクターXスペシャル -復刻版-」を外科医が見て興味深かったシーン

続いて、今回の「ドクターXスペシャル -復刻版-」では、一人の外科医として観ていると、とても興味深く考えさせられるシーンもありました。特に気になったのは以下のシーンです

  • 黒須院長が「外科医は1人の患者しか救えない」というシーン
  • クロス医療センターの内科医が「外科手術はなくなる」というシーン

黒須院長が「外科医は1人の患者しか救えない」というシーン

新たな薬の開発の拠点ともクロス医療センターの黒須院長が、手術で患者を救おうとする大門未知子に対して「外科医は一人の患者しか救えない」というシーンがありました。

恐らく、外科医は一度の手術で一人の患者しか救えないが新たな薬剤の開発では一度に多くの人を救うことが出来る、という意味合いでのセリフだと考えられます。

確かに一度の外科手術では原則的に一人しか治療出来ませんので、外科医が生涯で救うことが出来る患者の数は限られています。

対して特定の病気に効く薬剤を開発したり、基礎研究で病気のメカニズムを解明すると、一度に多くの患者を救うことができます。

外科医としては考えさせられる台詞でしたが、ドラマでは最終的に薬剤で治らなかった患者が大門の手術で治っており、ここには「外科手術は時として薬剤を使用した内科的な治療で治らなかった患者を救うこともできる」というメッセージが込められていたのではと思いました。

なお、より多くの患者さんを救うことに繋がるかも知れない基礎研究への進路については以下の記事もご参考下さい。

医学部卒業後の進路選択の道は多数開かれていることを以前の記事では説明いたしました。 今回は研究医になる場合についてお話ししていきたいと...

クロス医療センターの内科医が「外科手術はなくなる」というシーン

薬剤で患者を治療しようとする内科医師達が、手術で治療しようとする大門未知子に対して「外科手術は野蛮な治療だ」「外科手術は将来なくなる」といった趣旨の発言をしていました。

ここ数十年で薬剤の発展はめざましく、これまでは手術で治療していた病気で薬剤を用いた内科的な治療中心に置き換わったものもあります。

例を出すと、以前であれば胃潰瘍で手術を受けていた患者さんの多くが、強力な制酸剤(胃酸を抑える薬)の開発により手術なしで治癒するようになりました。

また21世紀に入ってからは抗がん剤の開発も目覚ましく、臓器によっては癌の進行をかなり抑えることが出来るようになりました。昔は危険を覚悟で手術で切除しに行っていた癌に対して、抗がん剤治療が選択となるケースも増えてきました。

以上の経緯より、実際に医学部でも「外科は将来あまり必要じゃなくなる」と一時期言われることもあり、ドラマでの内科医達のセリフは大変興味深く感じました。

しかし、外科手術を行わなければ根治出来ない病気は沢山あるため、全てが薬剤の使用を中心とした内科的な治療に置き換わるとは思えません。医学がいかに進んでも、外科手術が全く無くなってしまうということはないでしょう。

「ドクターXスペシャル -復刻版-」を考察したまとめ

今回の記事では、「ドクターXスペシャル -復刻版-」のあらすじについて、簡単に説明させていただき、現役の外科医目線で違和感を感じた点や興味深かった点についての考察を行いましたので以下にまとめて見ましょう。

  • 出血が原因で心停止までしていたら悠長に手術する余裕はない
  • 心臓マッサージの演出は救急搬送の場面に緊張感を持たせる
  • 実際の手術前の手洗い時にはマスクの装着は必須である
  • 外科手術は時として内科的な治療で治らなかった患者を救うこともできる
  • 内科的治療が発展しても完全に外科手術が無くなることはない

どうしても医療ドラマは違和感のある場面が出てきますが、実際の現場に近い描写にするとドラマの進行上、弊害が出てしまうので仕方がないのかなと感じました。

私がこのドラマから感じた一番のメッセージは、「大勢の患者を救うことのできる新薬の開発は素晴らしいが、外科医が手術によって一人の患者を救うことも尊いものである」という所でしょうか。

少し外科医にとって手前味噌な感想になってしまいましたが、今後も医療系ドラマを現役の外科医の視点から考察していきたいと思います。

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