引用元:https://www.tv-asahi.co.jp/doctor-x/
2019年11月21日21時より、「ドクターX 第6シリーズ 第6話」が放送されました。
今回は小児の後腹膜胚細胞種と肝細胞癌テーマです。
久しぶりに私が専門に扱う疾患が出てきましたので、とても興味深く観ることが出来ました。
今回の話の背景やドラマの提唱するメッセージを含めて、現役の外科医の視点から解説していきたいと思います。
なお、前回の記事はこちらになります。
Contents
「ドクターX 第6シリーズ 第6話」のあらすじ
キッズビジネスで大成功し、一千億円もの財産を築いた六角橋社長が神原名医紹介所を訪ねてきます。
手術の難しい後腹膜胚細胞種を患った7歳の皆月むつみを治療してくれる外科医を探すためでしたが、そこには六角橋社長の売名という目的がありました。
フリーランス外科医・大門は、フリーランス麻酔科医・城之内と衝突しながらも、皆月の手術を無事に終えました。
大門との衝突に落ち込む城之内をディナーに誘う六角橋社長ですが、帰り際に腹痛を訴え倒れ、東帝大学病院に搬送されます。
検査の末、若くしてステージ3Aと進行した肝細胞癌を患っていることが発覚した六角橋社長。彼からの頼みで、城之内が指名した術者は技術で大門よりはるかに劣る元外科部長・海老名だったのでした。
そのまま海老名が六角橋社長の執刀を開始しますが、危険な出血に対処することができず、最終的に大門の手により手術は成功するのでした。
今回は外科医と麻酔科医がいかに協力して手術を行わないといけないか、など実際の現場でも大切な要素が描写されていました。
「ドクターX 第6シリーズ 第5話」で取り上げられた疾患
今回は以下に挙げる疾患が取り上げられました。
- 後腹膜胚細胞腫瘍
- 肝細胞癌
- 腫瘍の切迫破裂
一部第2話とかぶった疾患が出てきましたが、順次解説していきます。
後腹膜胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍とは、10歳代から30歳代を中心に生じる悪性腫瘍の一つです。
胚細胞種のよくできる部位の一つに、後腹膜というお腹の中でも背中側に位置し、膵臓や腎臓、十二指腸がある場所が挙げられます。
ドラマで皆月は肺にも転移がありましたが、元々発生した場所以外にも腫瘍が飛び火する可能性もある病気です。
治療は手術のみならず、化学療法や放射線治療、そしてそれらを組み合わせた治療など多岐に及びます。
肝細胞癌
肝臓は人間のお腹の中で最も大きい臓器で、生命の維持には必要不可欠です。
そして肝臓にできる癌は、大きく分けて次の2つのタイプがあります。
- 肝臓そのものから発生する癌
- 他の臓器から転移して肝臓にできる癌
今回ドラマに登場した「肝細胞癌」は前者に含まれ、肝臓の細胞が癌になる病気です。
肝細胞癌の治療としては、手術による腫瘍の切除から、抗がん剤治療、腫瘍を栄養する血管を詰める治療、ラジオ派で焼く治療など多岐に渡ります。
しかし原則的に、手術が可能な症例であれば肝細胞癌を含む肝臓を摘出す手術を行います。
ドラマの中では、肝右葉切除術を言う肝臓の右半分(肝臓の容積からすると半分以上)を摘出する術式が選ばれていました。
腫瘍の切迫破裂
肝細胞癌は血液の流れが豊富で、大きくなるとちょっとしたきっかけで破裂して腫瘍からの出血を来たすことがあります。
切迫破裂とは、まさに肝細胞癌が破裂しかかっている状態になります。
肝細胞癌が破裂し、お腹の中で出血が生じるとあっという間に出血性ショックの状態に陥ることがあり、ドラマで六角橋社長の痛がり方から腫瘍の切迫破裂を疑った城之内の慌て方からもその緊急性がわかります。
肝細胞癌と腫瘍内出血については以下の記事もご参照下さい。
「ドクターX 第6シリーズ 第6話」を見て興味深かったシーン
さて、ここからは現役の外科医である私から見て興味深かったシーンを解説していきましょう。
私は以下の台詞が出てきたシーンで特に興味を惹かれました。
- 外科医なんて負け組なのかな
- 術式の変更くらい慣れているが今日のは酷すぎる
- 病気なんて他人事だと思っていた
それではそれぞれのシーンを順に解説して行きましょう。
「外科医なんて負け組なのかな」という台詞が出てきたシーン
外科医・原は、外科医の控え室で「外科医なんて負け組なのかな」と自虐的につぶやきました。
外科医と言えば、医療者以外から見ると手術で患者の命を救うイメージがあり、格好良く感じるかも知れませんが実際は以下の記事にもあるようにかなり泥臭い仕事です。
手術を執刀した後は術後管理、何かあれば帰宅した後も呼び出し、緊急手術がある際は夜中でも呼び出される可能性があり、かといって給料が他の科の医師に比べて良いわけでもありません。
昔は花形とされていた外科も労働環境の過酷さから、今や医学生から敬遠される科なのです。
もっと待遇の良い仕事や、労働環境の良い仕事と比べると「負け組」と思ってしまうのかも知れませんね。
「術式の変更くらい慣れているが今日のは酷すぎる」という台詞が出てきたシーン
手術では、事前に画像検査の結果などを確認し、綿密に計画を立ててから望みます。
そして予定の術式(手術方法)は麻酔科の医師を含め、手術室のスタッフで共有されることになります。
もちろん、体の中を見てみると実際より病気が進行していた、などの理由で術式が変更になることはあり得ます。
しかし、それはあくまでも想定内での変更ですが、それを大きく逸脱して変更することは様々なリスクを伴います。
今回のドラマのように、もともとお腹の手術だけを行う予定が、手術中に急遽追加で胸の手術もすると変更されるのは、もちろん手術室のスタッフにとって想定外のことです。
手術開始までにお腹と胸を手術すると決めていれば予め準備ができてますが、急な変更では準備が追いつかない可能性もあります。
特に胸の手術ではお腹の手術と違い、肺をへこませたりなど麻酔科医師による特殊な管理が要されるため、城之内としては今回の術式変更は頭にきたのでしょう。
「病気なんて他人事だと思っていた」という台詞が出てきたシーン
六角橋社長は肝細胞癌の診断をされた後に、病院の屋上で「病気なんて他人事だと思っていた」と言いました。
確かに、彼くらいの年齢ですとがんやその他の大きな病気を患うことはそう多くありません。
なので、実際に患者さんを沢山診ている私でさえ「自分はがんとは無縁だ」などとどこかで思っている節があります。
しかし大病を患うリスクは誰しもあるので、もし自分が患者になった際を想定して、どう立ち振る舞うべきかある程度方針を決めておくべきだな、とこのシーンを観て感じました。
現役の外科医が「ドクターX 第6シリーズ 第6話 」のまとめ
今回の記事では、「ドクターX 第6シリーズ 第6話 」のあらすじについて、簡単に説明させていただきました。
現役の外科医目線で興味深かった点についての考察を行いましたので以下にまとめて見ましょう。
- 外科医は果たして負け組なのか
- 急な術式変更は手術室スタッフにとって大迷惑
- 病気は自分が患うまで他人事だと思ってしまう
外科医はやりがいのある仕事ですが、忙しくその割には医師の中で特別待遇が良いわけでは必ずしもなく、他の好待遇な仕事と比べると負け組と見なされるかも知れません。
しかし勝ち組か負け組かは、自分自身が決めることであって、人が決めるべきものではないと私は考えています。
自分自身が外科医という仕事に満足していれば十分勝ち組の資格はあると思います。
また、手術を行う上では麻酔科医をはじめとして手術室スタッフとの十分な打ち合わせが必要です。
安全に手術を進めるためには、外科医の腕のみならず周りのスタッフからのサポートも欠かせません。
手術前に計画していなかった術式にころころ変えているようでは、スタッフからの信頼を失いかねませんからね。
最後に、大きな病気は自分や近い家族が患うまでは、医療に携わる自分でさえどこか他人事のように思えてしまうことがあります。
しかし誰しも大病を患う可能性は誰しもあるので、日頃からある程度覚悟を持って生活することも大切だな、と感じました。
それでは次回、第7話はちょっと特殊な手術でもある、植毛がテーマになりますが。引き続き考察していきたいと思います。