引用元:https://www.tv-asahi.co.jp/doctor-x/
2019年10月31日21時より、「ドクターX 第6シリーズ 第3話」が放送されました。
今回は舌に発生する舌癌(ぜつがん)に加えて眼球に発生する脈絡膜悪性黒色腫と、お腹が専門の私と全く専門が違う疾患が取り上げられましたが、その分興味深く見ることが出来ました。
専門領域ではない分、若干考察が浅くなるかもしれませんが、今回の話の背景など、現役の外科医の視点から解説していきたいと思います。
なお、前回の記事はこちらになります。
Contents
「ドクターX 第6シリーズ 第3話」のあらすじ
失言を繰り返すために立場が危うくなった厚生労働大臣・梅沢が、マスコミから身を隠し、かくまってもらう目的で東帝大学病院にやってきます。
病気でもないのに入院させることは出来ない、と病院長代理・ニコラス丹下は一旦断りますが、フリーランス外科医・大門未知子が梅沢の舌癌を偶然見つけ、治療目的に彼は入院となりました。
梅沢の舌癌の治療は手術で行う予定でしたが、入院を長引かせる意図を持ったニコラスは次世代がんゲノム腫瘍内科部長・浜地が提案する抗癌剤と陽子線治療を組み合わせた内科的治療を支持し、そちらでの治療を進めようとします。
そうした中、梅沢の失言の原因は目の病気にあると見抜いた大門は、勝手に梅沢の目の手術を始めます。
突然目の手術を始めた大門に驚くニコラス達でしたが、実は目の手術を執刀する前に、舌癌の手術も既に終えていたと知り、怒りに震えるのでした。
以上簡単にあらすじを紹介しました。今回は手術のシーンはさらっとしていましたが、舌や眼といった幅広い領域の手術に長けた大門に、私自身大変驚きました。
「ドクターX 第6シリーズ 第3話」で取り上げられた疾患
今回は以下に示すような、様々な疾患が取り上げられました。
- 舌癌
- 飛蚊症
- 脈絡膜悪性黒色腫
それでは、それぞれ簡単に解説していきます。
舌癌
大門は梅沢の口の中をぱっと見て、舌癌の診断を下します。
舌癌は口の中に出来る癌の半数を占めており、頭頸部外科(耳鼻咽喉科の一部門)もしくは口腔外科(歯科の一部門)による手術が治療の中心となります。
また、切除に伴い舌が大きく失われた際、体の他の部位を用いて切除した舌の代わりを作り直すこともあり(再建と言います)、その際は手術のチームに形成外科が加わることもあります。
癌の根治を目指すのであれば、大門の提示した手術による舌の部分切除が現実的のようです。
飛蚊症
眼科に置いてあるパンフレットなどでご存知の方も多いかと思います。
視界に虫や靄が飛んでいるように見える症状で、ドラマの中では虫がいないのに飛んでいると思い、宙を叩く梅沢の姿がこの症状を表現していました。
加齢に伴って眼球内の硝子体が濁ることによって起きる場合、眼球内で出血や今回のように腫瘍が出現した際に起こることもあります。
脈絡膜悪性黒色腫
日本人での発症は年間に数十例程度と、比較的珍しい悪性腫瘍の一つです。
他の臓器に転移を来すこともある比較的たちの悪い腫瘍で、眼球ごと腫瘍を摘出する手術が以前より行われてきましたが、抗癌剤や放射線治療の発達により眼球を温存する治療も進められています。
「ドクターX 第6シリーズ 第3話」を見て興味深かったシーン
さて、ここからは現役の外科医である私から見て興味深かったシーンを解説していきましょう。
私は以下のシーンで特に興味を惹かれました。
- 梅沢が病院にかくまってもらおうとするシーン
- 患者のQOLに言及するシーン
- 外科治療か内科治療かを議論するシーン
それでは順に解説して行きましょう。
梅沢が病院にかくまってもらおうとするシーン
今回、失言問題でマスコミから追われている厚生労働大臣・梅沢は、病気という体でしばらく東帝大学病院にかくまってもらおうと画策します。
現実でも〇〇病院は政治家が隠れるための御用達病院だ、と噂が立つことがあります。
実際のところはどうなのでしょうか?
前提として患者が入院しているか、どんな病気なのかなどという情報を病院スタッフが漏えいすることは、医療従事者の守秘義務に抵触します。
ですので仮にある政治家が入院したとしても、果たして病気で入院しているのかどうか知り得る術はありません。
ちょっと話はそれますが、病院は必ずしも病気が悪化した患者さんだけを入院させる訳ではなく、レスパイト入院と言って介護者の事情など、社会的な理由で一時入院を許可することはあります。
患者のQOLに言及するシーン
次世代がんゲノム腫瘍内科部長・浜地が、病院長代理・ニコラス丹下にAI診断+内科的治療を組み合わせたセットプランで「最先端の治療をQOLを保ったまま受けられる」と説明するシーンがありました。
ここで出てくるQOL(Quality Of Life=生活の質)は、医療現場でよく用いられる言葉となります。
病気の治療の後遺症によって、時として生活の質が落ちることがあります。例として以下のようなものが挙げられます。
- 胃癌ができて胃を全部摘出したら食事があまり摂れなくなった
- 抗癌剤治療をしたら辞めた後も手足にしびれが残っている
生命を優先させると、後遺症は許容されても仕方がないようにも一見思えますが、生活の質が下がった状態でその後の人生を送るのも大変辛いものです。
現在、治療を行う際には、いかに患者さんのQOLを下げずに病気の治癒を目指すかというところに重きを置かれています。
外科治療か内科治療かを議論するシーン
ドラマ中のカンファレンス(会議)では舌癌に対して手術による切除を行う外科的な治療か、抗癌剤と陽子線治療(放射線治療の一つ)を用いた内科的な治療を行うかで意見が割れました。
現在、医学の発達に伴い癌の治療一つとっても様々な方法があります。
大きく分けると以下の3つに分類されます。
- 外科治療…手術等により直接癌を切除する治療
- 化学療法…抗癌剤を投与し癌細胞を抑える治療
- 放射線療法…癌細胞に放射線を当てる治療
さらに実際の現場ではそれぞれを組み合わせることがあります。
例えば「手術の前に抗癌剤や放射線で癌を小さくしておいてから切除する」「手術の後に再発を防ぐ目的で抗癌剤を投与する」などです。
「この癌の進行具合にはこの治療」とある程度標準化されてはいますが、人体を扱う以上100%の正解というものはなく、また医学自体も日進月歩ですので、実際の現場でもドラマ同様治療方法に対して意見が割れることはしばしあり得ます。
現役の外科医が「ドクターX 第6シリーズ 第3話 」のまとめ
今回の記事では、「ドクターX 第6シリーズ 第3話 」のあらすじについて、簡単に説明させていただき、現役の外科医目線で興味深かった点についての考察を行いましたので以下にまとめて見ましょう。
- 政治家を病院が匿うことがあるのか?
- 治療を行う上でQOLは重要か?
- 外科治療と内科治療のどちらが優れているのか?
今回、厚生労働大臣・梅沢は、東帝大学病院に匿ってもらおうと訪れたことがきっかけで病気が見つかりました。
現実でも病院が政治家を匿うという話を耳にする事がありますが、患者情報を他言することは法律に抵触するため、真偽を確認する術はありません。
また、病気があればそれを根治することを最優先にと言うのは間違いではありませんが、現在の医療では治療と患者のQOLのバランスを取る事を重視されています。
最後に、医学の進歩によって同じ病気でもその治療は非常に多岐に及びます。
どの治療法が最も適切かどうかは、上記のQOLも考慮しながら判断していかなくてはいけません。
それにしても大門の守備範囲の広さには驚かされます。頭頸部外科医や口腔外科医の領域である舌癌の手術のみならず、眼科領域の手術も今回はやってのけました。
もっとも、同じ外科医でも専門が細かく分かれている現実世界ではそうも行きませんが…。
それでは次回、第4話は膝の腫瘍がテーマになりますが引き続き考察していきたいと思います。